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医療の国際グローバル化の波と私たちリハ従事者の展望

著者:阪井 康友 氏教授
帝京平成大学 大学院 健康科学研究科 理学療法学専攻 健康メディカル学部理学療法学科
株式会社 祥(さち)ファクトリ 取締役会長

リハビリイメージ

フィリピンのセブ市に「SAKAI Rehab & Care Inc. 」なる現地法人を昨年末に設立しました。同時にPTと看護師を雇用し、地域のセブドクターズ病院(大学病院)との提携を公式締結しました。
事業内容は、「海外のリゾート地におけるリハビリの提供」です。
これは、私が日本国内で運営している会社の顧客(脳卒中、神経難病、小児など)が、自由な海外旅行やロングステイ(短・中期滞在)を目標にして頂くためのものです。
もちろん社会ボランティア的な目的だけではありません。将来的に日本ブランドのリハ・サービスを日本人以外の人々に展開することも期待して海外事業を始めました。

リハビリイメージ

しかし、計算通りにはいきません。障碍等によって障碍者本人やその家族が抱えているあきらめ感や、必要とする介助の確保などの課題が出てきました。
現在は、障碍者や高齢者が海外に旅行をすることに対する「あきらめ」などの心理的、物理的な「障壁」を低くするための方法を模索しながら展開しています。

さて、海外事業の話はこの位にして、世界の経済事情を下支えしている元気な東南アジア(特に中国近隣国)を中心とした医療とリハ事情について話を進めましょう。

3年後の「2015年」、その年は我々にとって医療・リハ従事者にとって2つの大きな意味をもつ年です。「大きな意味」の1つ目は、日本の「団塊の世代」が、高齢者人口つまり65歳人口に突入する年だということです。2つ目はASEAN加盟国間での医師、看護師、PT、OT等の医療職種の国境がなくなる、つまり「クロスボーダ」「クロスライセンス」になる年だということです。
これらについて、次に少し詳しく述べてまいります。

1.高齢者人口急増:

  • 2015年以降、都市部において急激に高齢化が進みます。つまり、首都圏、関西圏、名古屋圏、福岡圏では、要支援・介護などの疾病や障碍を持つ人口が急増するということです。これは、財政難の各行政では益々、財政を圧迫する大きな要因となります。
  • 団塊の世代が65歳以上に達するため,今後5年ほどは現役から退きセカンドライフの活躍の場を地域に求める人々の増加が見込まれてきます。
  • また2020年を超えると、特に75歳以上高齢者の割合が高まることが予測されています。
  • このままでは、高齢者人口の増加は要支援・要介護者の増加に結びつくことが懸念されます。

2.ASEAN統合:

  • ASEAN10カ国は2015年の統合(オーストラリアとニュージーランドも参加予定)と、新しい経済統合構想の中でも、サービス分野の自由化の部会で、医療分野の国内優先的な保護扱いの撤廃の一つとして、医療機関の「クロスボーダ」、つまり医師、看護師、PT、OT等の「クロスライセンス」が予定されています。
  • メディカルツーリズム、ロングステイに代表されるように、日本人が世界を舞台にサービスを選ぶ時代になっています(筆者がビックリした医療先進国バンコク視察の様子も今後、報告も予定しています)。
  • 上海、シンガポール、バンコク、ペナンなどには数万人規模の日本人マーケットが誕生し、年々規模を拡大しています。バンコクには、大きくてホテルのような病院が複数あります。その内のある1病院だけを取り上げても、2011年度に利用した日本人患者は延べ8万人を数えました。
  • アジアの各国に新しい日本人の居住エリアが誕生しています。特にシンガポールやタイ王国は、医療先進国として充実した医療インフラを国家戦略として構築しています。
  • 米国を中心とする9カ国によるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が開始されようとしています。その対象は、物品の関税撤廃だけでなく、サービスなど21分野にも及びます。そうなれば、医療保険や介護保険制度にも何らかの影響があるかも知れません。TPPにただ反対するだけでなく、無用な不安が広がらないよう、利点に着目して調査・研究・開発する努力は欠かせません。TPPによる利点に着目してみれば、日本の医療・福祉サービスは戦略的転換のできる分野として有望だと思われます。
  • 日本は現在、TPPの参加を留保していますが、10年後の医療領域の解放・改革(国内優先的な保護扱いの撤廃など)の前に、前述の「クロスライセンス」を導入するASEAN(オーストラリア、ニュージーランドを含む)は、グローバルな競争力を増大させていくことでしょう。その7年後に日本で保護撤廃されても、外国語力の低い日本人に競争力があるかは疑問です。
    日本のマーケットを虎視眈々と狙っている国際医療企業(タイ・マレーシア・インドなど)にどれだけ太刀打ちできるか、逆に海外のシェアをどれだけ獲得できるか?それを考えていかなければならない時期を、私たちは既に迎えているのではないでしょうか。
  • 第10回社会保障改革に関する集中検討会議の資料(図1)にみられるように、医療・介護職のマンパワーの必要量は増加の一途を辿る見込みです。少子高齢化が加速する日本こそ、積極的にアジア等の海外の人材や活力を取り込んでおく必要があるのではないでしょうか。
    ASEANでの医療専門職の教育水準は決して低くはありません。例えば、ASEAN10カ国の医療専門職のアメリカ等への移動は日本の比ではありません。それは、医学教育もアメリカ水準の影響で、すでにグローバル化されていることを意味します。
  • EPA(経済連携協定)に基づく2010年度の外国人看護師候補者398人中、この2011年の第3回目となる看護師国家試験は16人合格で4.0%という低い合格率でした。この合格率の低さは、日本語の壁が大きく影響しているとされており、試験の全ての漢字に平仮名を振り、外国人に限って試験時間を延長した結果、2012年の第4回目となる看護師国家試験は47人合格で11.3%となりました。

図1 マンパワーの必要量の見込み

パターン1 平成23年度(2011) 平成27(2015)年度  平成37(2025)年度 
現状投影シナリオ 改革シナリオ 現状投影シナリオ 改革シナリオ
医師 29万人 30~ 32万人 30~ 31万人 33~ 35万人 32~ 34万人

看護職員

141万人 151~158万人 155~163万人 172~181万人 195~205万人
介護職員 140万人 161~169万人 165~173万人 213~224万人 232~244万人
医療その他職員 85万人 91~ 95万人 91~ 95万人 102~107万人 120~126万人
介護その他職員 66万人 76~ 80万人 79~ 83万人 100~105万人 125~131万人
合計 462万人 509~534万人 520~546万人 620~651万人 704~739万人
(注5) 医療その他職員には、病院・診療所に勤務する薬剤師、OT、PTなどのコメディカル職種、医療ソーシャルワーカー(MSW)、看護補助者、事務職員等が含まれ、介護その他職員には、介護支援専門員、相談員、OT、PTなどのコメディカル職種等が含まれる。

社会保障改革に関する集中検討会議(第10回)参考資料1-2「医療・介護に係る長期推計」より

このように高齢化はもちろん、日本ではまだあまり知られていないASEAN統合の現状など、国内外の動きにも、少し、目を向けるべきではないかと思います。

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