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今回は、先日、ピースクルーズ(株)主催ナースラボで行われたデンマークの国民高等学校「日欧文化交流学院」学院長の銭本 隆行さんを招いて、「デンマークでの介護医療」についての勉強会に参加しましたので、その情報をシェアいたします。
「幸福度」といえば、最近はブータンが有名ですが、デンマークの国民幸福度もなかなかのもので、2007年に英ケンブリッジ大学、翌年に米調査機関ワールド・08年の調査では43位)面積は九州2つ分ぐらいで、人口は兵庫県とほぼ同じ558万人が暮らしています。
国土は平坦な土地が多く、最も標高の高い所でも171メートルしかないということです。
さて、本題の医療などの制度ですが、福祉国家の基礎としてレギオン、コミューンと言う自治体によって運営されています。レギオンは日本で言うと都道府県。コミューンは市といった形でしょうか、そしてそれぞれが医療行政、福祉や教育を分担しています。
ご存知の方もあるでしょうが、税金は世界で最も高いレベルで、超がつくほど高い国民負担率(所得に対する税と社会保障費の比率)です。18歳以上の誰もが毎月収入の平均40%から50%もの税金を支払っています。
日本の税金はそこまで高くは無いですが、保険料やさまざまなリスクヘッジのために国民それぞれが相当なお金を払っていることが考えられます。
銭本先生の話によれば、日本人の実質収入の50%ほどを保険や教育など、将来のことにお金を使ってるとすれば、単純に比較するのは難しいですが、デンマークの公的福祉環境の方がレベルが高いという事が考えられます。なぜならば、医療費・介護費は無料、学校も大学まで無料、週37時間労働・有給休暇6週間、年金だけで余裕の生活…。が保障されているからです。
他に日本との大きな違いは、人口に対する高齢化率が低いということです。下記の表のように日本の急激な高齢化に比べ、デンマークでは現在高齢化65歳以上の人口は17%以下ということです。
World Population Prospets:The 2006 Revisionのデータから、9ヶ国の高齢化率の2050年までの予測を下の図に示す。
福祉に対する考え方は、経済面と人道的な面の両方を考え、どのようにすれば経済的にも、人生の質という点において最高の状態で暮らせるかということ考え、常に政府がそのバランスを調整していることが、個人任せの日本との大きな違いだと思います。
また、高齢者は人生を楽しむと言う事で認識されているので、施設、高齢者住宅、福祉器具の無料貸与、福祉関係職員(人的資源)が充実しており、利用者のニーズが介護の決め手であるため、無料で24 時間ケア体制や訪問看護師による在宅訪問で総合的にニーズ判定をされ、施設と在宅ケアが統合、総合システム化されているそうです。
無料の高齢者住宅も一戸の広さは約40平米。そして、トイレもまわりに介助者の人が立てるようになっていて、各戸すべてに、天井釣りのリフトがあるそうです。
参考までに職員は30キロ以上の重いものは持ち上げないというルールがあるそうです。(以前は重い人を持ち上げたりして、腰を痛めるなどの事故が多発したので、介護職員保護の観点より、改善ルールが定まったそうです。)
また、介護職員を守るためのさまざまな補助具も発達しているとの事でした。
公的な介護の現場でも公務員は制服が支給されており、その制服も何種類かあるそうです。 そして面白いのは、制服の着方、組み合わせ方は職員によって任せられており、組合せ方は16通りもあるそうです。一部日本の航空会社の制服でも、スカーフのアレンジなどは個人に任せられているところもありますが、有名な北欧デザイン発信の地ならではの独自性を重んじる気質を感じます。
看護師や介護の教育について
その時の介護や医療の状態にあわせ、カリキュラムが決められているそうです。医療や介護の現場にあわせた臨機応変な教育計画を立てられ、その都度、現場実地と理論の割合が変化するなど、現場にあわせた統制が、なされています。
そして何より驚く事は、看護師教育や社会保険士、介護士などヘルパーは公務員となり、教育中にも給与がもらえる事です。その金額も約20万円と、日本を基準に考えると、相当の給与が保障されています。
もう1つ、社会保険介護士教育というものがあります。看護師も、もちろんいるわけですがその下の看護師の代わりになるという形で学習し、薬も出せるようになっています。
精神看護など、メンタルの勉強を1年半行い、簡単なインシュリン注射であるとか、カテーテルなどは看護サイドの立場である社会保険介護士が担当していると言うことです。
では理学療法士の教育はどうでしょうか? こちらのほうも実習が多く、ほぼ日本の倍くらい実習の時間が義務付けられているそうです。デンマークには寝たきりの患者さんはおらず、常にリハビリをしている環境があるとの事でした。
高齢者の介護についても、各人に対する配慮やライフスタイル、その方の人生がどうだったか例えば、どのような職業についていたか、ということを聞いて、認知症など発症した場合でも、介護の質の向上に役立てているそうです。
日本でもアセスメントがあると思いますが、デンマークにおける高齢者の支援とは、身体的な介護のみならず社会的、文化的側面からのケアを同時に進めていくことであり、より深く分析を重ねることで認知症が発生した場合もそもそもその癖や習慣がなぜ出ているのかということを探り、対処することができるそうです。
以上が講座のレポートです。どうでしょうか?先生はデンマークだからできているとお考えですか?日本での実現は不可能でしょうか?
ピースクルーズ株式会社:
大阪にあるピースクルーズ(株)主催のナースラボでは、ナースを中心に月一回勉強会が行われています。
(http://www.cruise65.com/)
書籍:デンマーク流「幸せの国」のつくりかた 銭本 隆行著 |