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重度認知症患者における行動心理学的症候と介護負担度の関連性

著者:田中 寛之 氏(写真)1)2),西川 隆 氏2) 
1)医療法人晴風園 今井病院
2)大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.2 A3(Feb. 08,2013)

Keywords: 重度認知症患者,行動心理学的症候,介護負担度

【研究背景と目的】
認知症患者の生活を支援するうえでは患者の行動心理学的症候 (以下BPSD) と介護者の負担感の評価を行うことが重要である1)2)。これまでのBPSDと介護負担度の調査では,在宅の患者・家族を対象としているため軽度・中等度の認知症患者が中心3)4)であったが,最近では施設・病院内でのBPSDの出現状況や,介護・看護師の介護負担に関するものも多い5)6)。しかし,BPSDの対応が困難な重度認知症患者に着目した調査はあまり見当たらない。
本研究では,重度認知症患者のBPSDと介護者の介護負担度に注目し,軽度・中等度認知症患者との比較から発現しうる種類,頻度・重症度,介護負担度の特徴を明らかにし,BPSDへの対応・対処法を検討した。

【方法】
対象者はDSM-Ⅳ TRの診断基準によって認知症と診断された医療・介護型療養病床に入院する患者79名であり,重症度をClinical Dementia Rating (以下CDR) 7)にて判定した (表1) 。BPSDの評価をNeuropsychiatric Inventory Nursing Home Version (以下NPI-NH) 8)9)を用いて,担当看護師へ評価を実施した。統計処理は,各群間のNPI項目の出現率の差異はFisherの直接確立法,NPI得点と介護負担度の関連はSpearman順位相関係数を用いて検定した。

表1:対象者の認知症重症度と各評価得点

【結果】
1.認知症重症度とNPI各項目の出現率,NPI得点,介護負担度について
全対象者,CDR各群にて,何らかのBPSDが出現していた対象者は70%以上であった。各群において出現率が20%以上であったNPI項目は,CDR3群で「興奮」「幻覚」「無為・無関心」「脱抑制」「異常行動」「睡眠」であった。すべての群において「興奮」「無為・無関心」の項目が20%を超えていた (図1)
CDR3群において,CDR1・2群と比較し有意に (P<0.05) 出現率が高かった項目は「脱抑制」であった (図1)

図1:各群におけるNPI項目出現率

2.NPI得点と介護負担度の関連について
対象者全体,CDR各群におけるNPI総点と介護負担度総点との間に有意な相関が認められた (表2)

表2:NPI総点と介護負担度総点の相関性

CDR3群における各項目のNPI得点と介護負担度の関連性においては,多幸以外の全ての項目でNPI得点と介護負担度との間に有意な相関が認められた (表3) 。特に出現率が20%以上で,NPI得点と介護負担度との関連性できわめて強い相関 (0.9<r) があった項目は「興奮」「脱抑制」「異常行動」であった。

表3:CDR3群におけるNPI得点とNPI介護負担度の相関

【考察】
1.認知症重症度とNPI各項目の出現率,NPI得点,介護負担度について
認知症患者のBPSDは,中等度で著明に出現するが3)4)10),本研究の結果からは各項目NPI得点,出現率における群間の差は「脱抑制」以外の項目で認められなかった。施設や病院へ入院・入所後も興奮や易刺激性,脱抑制などは増加する傾向にあるという報告11)もあり,療養病床に入院する重度認知症患者においては,認知症の重症度によってBPSDの出現率には差はなく,しかも重度に至れば「脱抑制」の項目が特徴的に出現し,増悪する可能性があることを示唆するかもしれない。

2.NPI得点と介護負担度の関連について
全対象者,各群においてNPI総点,多幸を除く全項目のNPI得点と介護負担度の得点との相関は高かった。これは,多幸以外の何らかのBPSDが出現すれば,介護者は負担を感じると思われた。
とくにCDR3群において,「興奮」「脱抑制」「異常行動」出現率が高く,NPI得点と介護負担度との非常に強い相関(0.9<r)が認められたため,これらの頻度,重症度を軽減させることが介護負担度軽減に直結すると考えられ,優先的に対応を考えるべき項目であると考えられた。

3.対応・対処策の模索
重度認知症患者では言語的コミュニケーションが困難なためにBPSDの背景となっている原因・経緯も分かりにくい1)。そのため,画一的な方法ではBPSDの対応・対処は不十分と思われ,ケースごとに発現場面,症状,経緯を分析し,対応を検討する必要があると思われた。

●参考文献
1)田北 昌 : 高度ADにおけるBPSD治療の考え方. 老年精神医学雑誌, 19 (1) : 115-118 ( 2008).
2)博野信次 : 痴呆の行動学的心理学的症候(BPSD)を評価することの重要性. 老年精神医学雑誌, 15 : 67-72 (2004).
3)Asada T, Kinoshita T, Morikawa S, Motonago T, et al. : A prospective 5-year follow-up study on the behavioral disturbances of community-dwelling elderly people with Alzheimer disease. Alzheimer Dis Assoc Disord, 13 (4) : 202-208 (1999).
4)Asada T, Motonaga T, Kinoshita T : Predictors of severity of behavioral disturbance among community-dwelling elderly individuals with Alzheimer's disease. a 6-year follow-up study. Psychiatry Clin Neurosci, 54 (6) : 673-677 (2000).
5)Black W, Almeida OP : A systematic review of the association between the behavioral and psychology-ical symptoms of dementia and burden of care. Int Psychogeriatr, 16 (3) : 295-315 (2004)
6)中山博織, 大西久男, 西川隆 : 島根県内の老健施設における認知症の周辺症状と介護負担の実態調査. 島根医学, 30 (3) 39-46 (2010).
7)Hughes CP, Berg L, Danziger WL, Coben LA, et al. : A new clinical scale for the staging of dementia. Br J Psy-chiatry, 140 : 566-572 (1982).
8)Woods S, Cummings JL, Hsu MA, Barclay T, et al. : The use of the neuropsychiatric inventory in nursing home residents. Characterization and measurement. Am J Geratr Psychiatry , 8 : 75-83 (2000).
9)繁信和恵, 博野信次, 田伏薫, 池田学 : 日本版NPI-NHの妥当性と信頼性の検討. 神経研究の進歩, 60 : 1463-1469 (2008).
10)守田嘉雄, 三好功峰 : 痴呆の症状変遷と問題行動. 老年精神医学雑誌, 2 (9) : 1073-1077 (1991).
11)Wetzels R, Zuidema S, Jansen I, Verhey F, et al. : Course of neuropsychiatric symptoms in residents with dementia in long term care institutions ; A systematic review. Int Psychogeriatr, 22 (7) : 1040-1053 (2010).

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