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ジャーナルハイライト Letter OT

微小重力ポジショニングシステムR.E.D.による訓練効果の検証

著者:青木 將剛 氏(写真) 
医療法人社団竹口病院 診療技術部リハビリテーション科

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.3 No.5 L2(May. 30,2014)

Keywords: 微小重力ポジショニングシステム,R.E.D.,訓練効果

臨床での訓練では,筋緊張を制御し運動の準備段階を経て機能訓練を行うが,姿勢の変化や動作時に再び亢進するという現実がある.そこで,最も筋収縮に影響の少ない臥位姿勢へのアプローチに着目し低反撥マットレスを積層しポジショニングを行ったところ,容易に筋緊張の制御ができることを発見し,その状態を長時間保持することにも成功した.

検証のため,当院入院患者47名(対象疾患:脳血管障害 ,運動器疾患,整形外科疾患)を病室のベッド1群,低反発マットレス2群に分け,それぞれの環境でポジショニングを行った(図1).(男女別:男性21名、女性26名,平均年齢:75.6±9.3歳)各ポジショニングの環境で,以下の訓練と比較を行った.訓練項目は,筋のストレッチ,関節のモビライゼーション,関節可動域訓練,各訓練前後の比較においては①筋緊張(modified Ashworth scale:MAS)8関節.②筋硬度(触診スケール)11部位.③安定した筋緊張の持続時間を比較した.

図1:2群の微小重力ポジショニングシステムR.E.D.

分析方法は,統計ソフト(SPSSver11.5J )で,Mann-WhitneyのU検定で比較した.検定数は4項目となり,検定1は両群間の開始前,検定2は1群の効果,検定3は2群の効果,検定4は1群効果結果と2群効果結果の有意差を求めた.この結果,検定3,検定4に有意差(P<0.01)を認めた.

各群の開始前における比較項目の値に有意差はなく,2群に有意に治療効果が見られた.以下の通り上げる.①筋緊張:股関節,膝関節,足関節,肩関節,肘関節,頚椎,胸椎,腰椎を検査し廃用症候群の右股関節,右膝関節に差がない以外は,P<0.01で他の全関節に有効性が見られた.②筋硬度:大腿部(前面,後面,外側,内側)下腿部,肩甲骨,肩周囲,上腕部,頚部,胸部,腰部を行い,中枢神経疾患の左下腿部と左胸部,廃用症候群の肩甲骨と頚部に有意差がない以外はP<0.01で有意差があると言えた.両群間での有意差なしでは,筋緊張検査で脳血管障害胸椎と廃用症候群の左膝関節であった.筋硬度では脳血管障害で右肩周囲であった.③筋緊張の持続時間は,1群平均0.55時間,2群平均63.6時間であった.

この結果を基礎研究として,2010年よりRehabilitation&Engineering Design(以下,R.E.D.)とし,積層した低反撥マットレス上で行うポジショニング環境を,微小重力ポジショニングシステムR.E.D. の名称にまとめ、現在も研究,検証を継続している.

【研究方法】
使用機器は,1群病室マットレス(パラマウント社製プレグラ80(t)×910×1900(mm)),ポジショニングクッションはビーズクッションを使用.2群低反撥マットレス(welHANDS medical社製ポジショニングマットレス45(t)×900×1800(mm))ポジショニングクッションは,三角錐状ウレタンクッションを使用した.

効果のあった2群環境では,以下の原理,方法で行った.低反撥マットレスの沈み込み特性を利用して,ニュートン物理学,作用-反作用法則の反作用を最小にし,身体質量と重力の比重を等しく拮抗させる.これを微小重力環境とした.この環境を実際に再現するため,低反撥マットレスを数枚重ねる事でつくり出し,抗重力筋の活動を最小にする.この状態でポジショニングを行う.深層のマットレスにクッションを入れる事で身体へのモールド性が高まり,浅層に入れる事で身体輪郭までの広い面積にマットレス面を合わせる事ができる.こうすることで支持基底面はより広範となり,身体に触れている面積が多くなるため,確実で安定した感覚入力を促す事ができる.

図2:2群のR.E.D.環境でのポジショニング方法

1枚の低反撥マットレスを3枚重ね,患者を臥位姿勢で乗せる.図2がその完成形である.図2ポジショニングクッションのような三角錐状のクッションを各層に入れポジショニングアプローチを行う.入れる場所やクッションの硬さで様々な用途に分かれる.図2基底層にポジショニングクッションを入れることで身体を支持するベースを作る.低反撥マットレスは何もしなければ慣性にしたがってどこまでも広がってしまうため,最下層である基底層でしっかりとした土台を作る.図2深層に入れることで身体へのモールド性が高まっていく.中間層では矯正の効果が高く、浅層ではマットレスの下から脊柱や背面筋群へのアプローチ,マットレス上では身体への直接的なアプローチ(関節可動域訓練,ストレッチ,モビライゼーション等)を行う事ができる.


微小重力環境がもたらす身体と重力の比重拮抗と,広い支持基底面からの感覚入力は筋緊張制御に影響し筋が緩んだ状態を持続させた.

御手洗は,宇宙空間の無重量の状態では,超安静状態であり,筋の収縮は最小となる(1) .更に宇宙での生活が長くなると筋の萎縮,骨密度の低下(2)から廃用症候群に影響するとしている(3)

2群環境は,このような,宇宙空間の無重量状態を,地球上で低反撥マットレスの沈み込み特性を利用して模擬的につくった環境である.模擬的な環境である微小重力環境が宇宙空間で起こる筋組織の現象を地球上で再現し,抗重力筋は収縮の必然性をなくし,筋緊張,筋硬度は安定した.

後藤は,筋緊張の制御は,重力及び環境を知る為に,体性感覚系,前庭感覚系からの抹消入力が働いている.身体を理解するには,感覚や支持基底面の安定が必要であり,効率の良い姿勢・動作は各感覚系を総動員させた上で成り立っている(4)としている.このため、2群環境は,広い支持基底面であることから感覚が入り,身体定位や筋緊張の変化,関節拘縮の変化から姿勢変化に繋がったと考える.

●参考文献
(1) 御手洗玄洋 宇宙生命科学 名古屋大学医学研究所Vol,94,No.11
(2) J.A.Howell.Anat.Record 13,233(1917) (平嶋侃一 無重量状態  医実報告7(2):84-97.196 6
(3) M.McCally:Hypodynamics and Hypogravics,Acade-Mic Press 1968
(4) 後藤淳 理学療法基本技術 筋緊張のコントロール 関西理学3:21-31,2003

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