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人工膝関節置換術後の術後痛予後に影響する精神的・認知的要因の検討

著者:平川 善之 氏(写真)1),3),原 道也 氏2),藤原 明 氏2),花田 弘文 氏2),森岡 周 氏3) 
1)福岡リハビリテーション病院 リハビリテーション部
2)福岡リハビリテーション病院 整形外科
3)畿央大学大学院 健康科学研究科

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.3 No.2 A1(Feb. 07,2014)

Keywords: 人工膝関節置換術,術後痛,慢性化

【はじめに】
人工膝関節置換術(以下TKA)は主に膝痛の改善を目的に行われる。しかし15%程に術後痛が慢性化すると報告がある1)。近年術後痛の予後に影響する因子として、身体的・機能的要因に加えて、精神的要因の重要性も多く報告されている。

一方我々は術後患者が訴える「自肢の存在と運動感覚の認知能力」が低下した症状(neglect-like symptoms;以下NLS)が術後痛の予後に影響を与えると考えている。この症状はGalar 2,3)らが報告したもので、疼痛を伴う自肢がどうなっているのかわからない、自肢を動かすために過剰な努力を要する状態を指している。

そこで本研究の目的は、術後のNLSや精神的状態が術後4ヶ月の疼痛に与える影響を調査し、術後理学療法アプローチの再考を行うこととした。

【対象】
対象は2011年6月から2012年8月までに当院にてTKAを施行された患者のうち、認知症、術後神経損傷を有している者、そして複数回のTKA施行者(反対側のTKA、再々置換術)や変性疾患以外の原因(骨壊死、リウマチなど)によるTKA患者を除外基準として取り込まれた者74名(平均年齢75.2±5.9歳男20名女54名)であった。

【方法】
評価項目は、術後3週時点での術後痛(visual analog scale)、NLSの評価をneglect-like symptoms score(以下NLS-s;表1)、精神的要因として、不安要因および痛みへの破局的思考を取り上げ、State-Trait Anxiety Inventory (下位項目STAI1;状態不安、STAI2;特性不安に分類)、Pain Catastrophizing Scale (以下PCS;下位項目 反芻、無力感、拡大視に分類)を評価した。さらに術後痛の予後として術後4カ月時点でThe Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(以下WOMAC)を評価し、その下位項目である「痛み」を用いた。

表1:neglect-like symptoms の質問項目

【統計的解析方法】
WOMAC「痛み」に対し、術後3週での各要因が与える影響を分析するため、「痛み」を従属変数、その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析を行った。

終了者の訪問リハビリ継続期間の比較

【結果】
重回帰分析を行った結果、決定係数r2=0.25となりNLS-s(β=0.34 p=0.02)、反芻(β=0.36 p=0.02)が優位な関連項目として抽出された。(表2)

【考察】
NLSとはGalarらが1995年にcomplex regional pain syndrome(CRPS)患者の有する運動機能障害(動き始めの遅延、自発性運動の低下、緩慢な動き)を指したものである。今回の結果から術後3週でのNLSの強さが術後4カ月の「痛み」の予測因子となることが分かった。NLSを有する患者には後頭頂葉の活動低下が認められ、このため感覚統合機能に問題があると報告4)されている。また感覚モダリティ―の統合により形成される身体イメージが不正確になることもNLSの原因になるとする報告5)もある。一方、反芻とは痛みに対し注意が過度に向き、痛みに固執した状態6)であり、痛みの予後に悲観的な不安感を現わしている。これらのことから術後のNLSと術後痛への固執と不安感が、術後痛が慢性化する一因になると考えられる。よってTKAの術後リハは感覚機能の回復とその統合を促す必要があると考えられる。また術後痛への固執が強く、反芻の状態に陥った症例に対しては、術後痛への対処方法を教育するとともに、術後痛の長期予後を明示することにより、患者の抱える不安を軽減させる必要がある。これらは術後痛を慢性化させないために有効な手段であると考えられる。

●参考文献
1) Hofmann S, Seitlinger G, Djahani O, Pietsch M., The painful knee after TKA: a diagnostic algorithm for failure analysis., Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc., 19,2011,1442-52.
2) Galer BS, Butler S, Jensen MP. Case reports and hypothesis:a neglect-like syndrome may be responsible for the motor disturbance in reflex sympathetic dystrophy(Complex Regional Pain Syndrome-1).J Pain Symptom manage.1995;10:385-391
3) Galar BS, Jensen M. Neglect-like symptoms in complex regional pain syndrome:results of a self-administered survey. J Pain Symptom manage.1999;13:213-217.
4) Vartiainen NV, Kirveskari E, Forss N.Central processing of tactile and nociceptive stimuli in complex regional pain syndrome.Clin Neurophysiol.,119(10),2008,2380-8
5) Bultitude JH, Rafal RD.,Derangement of body representation in complex regional pain syndrome: report of a case treated with mirror and prisms., Exp Brain Res.,204(3),2010,409-18.
6) Sullivan MJ, Stanish W, Waite H, Sullivan M, Tripp DA,Catastrophizing, pain, and disability in patients with soft-tissue injuries. Pain, 77(3), 1998, 253-60.

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