著者:永田 誠一 氏(写真)1),高嶋 幸男 氏2),松野 ひとみ 氏1),藤原 倫行 氏3)
1) 介護老人保健施設舞風台, 2)国際医療福祉大学大学院, 3)柳川リハビリテーション病院, 4)株式会社日立メディコ
【はじめに】
片麻痺の回復過程には同側性脊髄下降路が関与してることが知られている。機能回復には、病巣周囲に加え、麻痺肢と同側半球の一次運動野などの活性化が関与し、特に慢性期では後者の影響が強いという報告がある。しかし、リハビリテーションによる機能改善と左右半球の優位性の変化については未解明な点も多い。そこで、今回、慢性期片麻痺22名を対象に30日間の上肢機能改善訓練を行い、機能障害評価の記録と光トポグラフィによる一次運動野相当部位の酸化ヘモグロビン(oxyHb)濃度の変化を観察した結果、機能改善と同側一次運動野の優位性の増大について考察する機会を得たので報告する。
【対象】
慢性期片麻痺 22名。左片麻痺9名 右片麻痺13名。
平均年齢 59±9.3歳
発症期間 1250±688.8(375~2595)日
光トポグラフィについては、対照群として、健常者10名にも実施した(男性5名 女性5名)。
健常者群は平均年齢が56±9.2(40~68)歳で、全員が右利きであった。
【方法】
30日間、上肢機能へアプローチを実施。
その前後でFugl-Meyer Assessment(FMA)と光トポグラフィの評価を実施した。機能的アプローチは、週に3~6回の頻度にてマンツーマンで行い、1回のアプローチ時間は40分間であった。アプローチ内容は主に、A徒手誘導を用いた促通手技の実施、B物品操作を用いた課題指向的訓練であった。光トポグラフィは、日立メディコ製ETG-4000(左右24チャンネル)を使用し、肩関節屈曲運動時のoxyHb濃度を測定した。計測部位は中心溝を中心とした前頭葉と頭頂葉とし、頭部に装着するホルダー4×4(9cm×9cm、左右各24チャンネル)を脳波計測で用いられる国際式10/20法によりC3とC4が中心に配置されるようにした。更に、ROI(関心領域)設定を行い、一次運動野相当部位を同定した(図1)。
解析には、日立メディコ製複数人加算解析ソフトを用いた。複数人加算解析とは、時間軸などを同じ条件にして信号処理をした複数人分のデータを加算平均化することである。左片麻痺9名分、右片麻痺13名分、健常者の左側10名分、健常者の右側10名分について、課題開始から基準線に戻るまでの間の一次運動野相当部位のoxyHb濃度をそれぞれ加算平均した(図2)。さらに、左右差指数(LI)を図の様に算出した(図3)。
【結果】
<FMA>
上肢合計は、30日前の平均40.5±14.9点が30日後は平均45.1±13.4点へ有意に向上していた(p<0.01)。肩/肘/前腕は、30日前の平均23.8±6.8点が30日後は平均27.0±5.5点へ有意に向上していた(P<0.01)。手関節は、30日前の平均4.7±4.4点が30日後は平均5.0±4.5点で、両者には特に有意差を認めなかった。手指は、30日前の平均10.0±3.3点が30日後は平均10.5±3.3点で、有意に向上していた(P<0.05)。協調性/スピードは、30日前の平均2.0±2.0点が30日後は平均2.7±2.2点へ有意に向上していた(P<0.01)(図4)。
<光トポグラフィ 健常者群ー片麻痺群比較>
一次運動野相当部位のoxyHb濃度は、健常者群の左肩関節運動時の対側半球では50.4mmol*mm、同側半球では32.7mmol*mmで、LIは0.21だった。それに対して左片麻痺群の対側半球では103.3mmol*mm、同側半球では85.8mmol*mmで、LIは0.09だった。健常者群の右肩関節運動時の対側半球では66.0mmol*mm、同側半球では55.4mmol*mmで.LIは0.09だった。それに対して右片麻痺群の対側半球では81.7mmol*mm、同側半球では86.9mmol*mmで、LIは-0.03だった。健常者群のoxyHb濃度の加算値とLIは左右で異なり、いずれの片麻痺群も健常者群よりも加算値は高くLIはマイナスよりを示した。両片麻痺群とも、健常者群よりも同側半球の関与が強い事が示唆されていた(図5)。
<光トポグラフィ 30日間前後比較>
30日後は、左片麻痺群では対側半球では、64.1mmol*mm、同側半球では47.9mmol*mmで、左右差指数は、-0.14となった。右片麻痺群では、対側半球では、52.0mmol*mm、同側半球では71.4mmol*mmで、左右差指数は、-0.16となった。運動機能改善に伴い、両片麻痺群ともに、oxyHb濃度加算値は減少し、左右差指数では同側半球の優位性が高まる結果となった。
【考察】
片麻痺の回復過程における同側半球の関与については、慢性期の回復に重要とされる一方で、病的な鏡像運動や病巣に対する抑制作用を強めるなどのリスクも指摘されている。しかし、光トポグラフィを用いた今回の研究においては、片麻痺群は健常者群よりも同側一次運動野の関与が強いことに加えて、回復に伴いさらに優位となることが示された。これは、慢性期における回復は、同側半球の活性化によっても生じる可能性があることを示唆するものである。
●参考文献
山田 深:片麻痺の回復kパターンと同側性運動路の関与。JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION Vol16 No10:p919-924,2007.