著者:濱崎 圭祐 氏(写真)1),妹尾 賢和 氏1),澤野 靖之 氏1),石垣 直輝 氏1),田巻 達也 氏2),老沼 和弘 氏2)
1) 船橋整形外科病院 理学診療部
2) 船橋整形外科病院 人工関節センター
Keywords: 片側人工股関節全置換,クリニカルパス,術前理学療法
【はじめに,目的】
近年の診療報酬包括化や手術手技の進歩により、人工股関節置換術(THA)患者の在院日数は短縮傾向にある。当院では前方進入法による人工股関節全置換術(DAA-THA)を実施している。前方進入法は筋温存アプローチとも呼ばれており、筋の侵襲を最小限にすることができる。筋温存アプローチの利点は、早期の回復、痛みが少ないこと、出血量が少ないこと、在院日数の短縮、リハビリテーション期間の短縮が期待できる。
当院ではDAA-THAに対してクリニカルパス(パス)を導入し、2012年2月から術後4日目退院(在院期間6日)のパスを運用している。現在我々はその運用とともにパスの妥当性の検証を進めているがADLとの関連性は検証されていない。そこで本研究の目的は、片側DAA-THA術後4日目退院パスの達成率を検討し、パスを達成できなかった症例のADL状況をWOMACを用いて調査することである。
【方法】
2012年2月から5月までに施行した片側DAA-THA137例(初回THA129例、revision THA8例)を対象とした。内訳は女性122名、男性15名、平均年齢69.3歳(38-87歳)であった。検討項目はパスの妥当性に対して在院日数、パス達成率、退院先、合併症の有無を調査した。
理学療法におけるアウトカムは、階段昇降自立、300m以上のT字杖歩行自立、屋外歩行自立と3点である。またADLの調査は術前のWOMAC点数、入院期間中の各退院基準獲得日数を調査した。WOMACは股関節および膝関節の変形性関節症患者の健康状態を測る自己記入式の評価表であり、THAの術後評価法としても推奨されている。
内容は痛み、こわばり、身体機能面に分かれており、健康状態が悪いほど合計点数が高値を示す。術前のパス達成群とパス非達成群のWOMAC合計点と各項目点を検討した。また、パス達成群とパス非達成群の入院期間中の各退院基準獲得日数を検討した。(Mann-Whitney U-test;p<0.05)
【結果】
術後の退院までの日数は4.4±1.9日であり、パス達成率は88.3%であった(図1)。全症例が自宅へ退院し、感染、症候性静脈血栓塞栓症、再手術を要した症例はなかった。WOMACの合計点、身体機能面において、術前のパス達成群とパス非達成群間に有意差を認めた.痛みとこわばりにおいて有意差はみられなかった(図2)。退院基準の獲得日数は、すべての項目でパス非達成群の獲得日数が有意に遅延していた(図3)。
【考察】
DAA-THAの術後4日目退院クリニカルパス達成率は88.3%であった。Dykesはクリニカルパスには「8:2ルール」というものがあって、本当に標準化されたクリニカルパスであると、80%の患者は100%のパス通りに医療ケアが進むと述べている。1)本研究の結果からも8:2ルールで判断すると20%までの逸脱が許されると考えられ、妥当性が証明された。更に在院期間の短縮に起因する合併症を認めず、退院時歩行能力も問題のない結果であった。
またWOMACの調査結果から、パス達成群に比べパス非達成群が、術前におけるWOMACの合計点が高く、特に身体機能面の点数が高い結果となり、術前の身体機能低下が退院基準の獲得日数遅延と関連することが示唆された。WOMAC身体機能面の点数が高い、つまり身体機能が低い患者に対して術前から可動域、筋力向上を目的とした理学療法を行うことにより、ADL動作の早期獲得が可能となりパス達成率の向上につながる可能性があると考える。
●参考文献
1) Dykes PC : Designing and Implementing Critical Pathways : An Overview. In P. C. Dykes & K Wheeler(Eds.).Planning,Implementing,and Evaluating Critical Pathways.Springer Publishing Company : New York.