著者:千葉 恒 氏(写真)1),杉澤 裕之 氏1),菅原 敏暢 氏1),矢倉 幸久 氏2),小林 徹也 氏3),神保 静夫 氏3),妹尾 一誠 氏3),清水 睦也 氏3),今井 充 氏3),熱田 裕司 氏3),伊藤 浩 氏3)
1) 北海道社会事業協会富良野病院 リハビリテーション科, 2) 北海道社会事業協会富良野病院 整形外科, 3) 旭川医科大学 整形外科
Keywords: 腰痛,脊柱矢状面アライメント,体幹機能
【目的】
腰痛は1995年より男女共に厚生労働省による国民生活基礎調査の有訴受診率上位を占めている 1)。腰痛患者が減少しない中で、2013年には19年ぶりに厚生労働省は腰痛予防対策指針を変更 2)しており、腰痛予防対策の重要性は今後ますます増してくると同時に、理学療法士による腰痛予防への介入やエビデンスの構築が求められている。腰痛予防に関する報告は1980年代から増加傾向にあるが、腰痛と脊柱矢状面アライメントや体幹機能に関する縦断データを用いた報告は我々が知る限り、ほとんど存在しない。本研究の目的は、中高齢女性の腰痛の経年的変化に影響を及ぼす脊柱矢状面アライメントおよび体幹機能因子を検討することとした。
【方法】
対象は、初回(ベースライン、以下BL)と5年後(フォローアップ、以下FU)に全項目の評価が可能であった、北海道上川地方および十勝地方に在住する一般中高齢女性28名(初回時平均年齢57.4±6.8歳)とした。評価項目は、腰痛Visual Analogue Scale(以下、腰痛VAS)、健康関連QOL(SF-36 下位8項目;Physical Function(PF)、Role Physical(RP)、Bodily Pain(BP)、General Health(GH)、Vitality(VT)、Social Function(SF)、Role Emotional(RE)、Mental Health(MH))、全脊柱立位X線側面像による胸椎後弯角(Thoracic Kyphosis)、腰椎前弯角(Lumbar Lordosis;以下LL)、仙骨傾斜角(Sacral Slope)、Sagittal Vertical Axis(SVA)の計測(図1)、
体幹機能項目として脊柱他動背屈域テスト(Prone Press up test 4);以下PP、腹臥位から下肢・骨盤固定で上肢を使用して体幹を最大背屈させた時の床から胸骨頚切痕までの距離)、脊柱自動背屈域テスト(Back Extension Test 5) ;以下BET、腹臥位から下肢・骨盤固定で上肢を使用せずに体幹を最大背屈させた時の下顎床間距離)、体幹筋力はOG技研のGT350を使用し、伊藤らの報告 6)と同様に等尺性腹筋および背筋のpeak値を測定値とした(図2)。
検討方法は、腰痛VASの変化量(FU値-BL値)と各評価項目の変化量(FU値-BL値)との関係について、Spearmanの順位相関係数にて分析した。さらに腰痛VASの変化量を従属変数、相関分析にて有意とみなされた評価項目を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析にて腰痛VASに影響する因子を検討した。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
腰痛VASは、LL、PP、SF-36の下位尺度であるPFおよびBPと中等度の相関を認めた(表1)。
重回帰分析では、腰痛VASに影響する因子としてPPおよびLLが抽出された(表2)。
【考察】
今回の一般中高齢女性においては、腰痛の経年的な変化はLLの減少とともに、PPの低下が最も関連が強い結果であった。腰痛とLLに関する報告は、これまでにも散見される 7-9)。LL減少に伴い、体幹の前傾姿勢を強いられ、腰部伸筋は受動的伸張および筋膜による圧迫の影響を受け、筋内圧が上昇し筋内血流が減少することで筋原性疼痛を引き起こすと考えられる。腰痛症状には脊柱変性、体幹機能の他にも生活習慣、職歴、心因など多因子が影響すると考えられるが、理学療法による長期的な腰痛予防の観点からは、脊柱他動背屈域の改善が腰痛悪化の予防に寄与する可能性が示唆された。
●引用文献
1) 厚生労働省:平成25年国民生活基礎調査.www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
2) 厚生労働省:職場における腰痛予防対策指針について(平成25年6月改訂).www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/131114-01.pdf
3) Bandy WD, Reese NB:Strapped versus unstrapped technique of the prone press-up for measurement of lumbar extension using a tape measure;differences in magnitude and reliability of measurements.Arch Phys Med Rehabil. 2004;85:99-103
4) 小林徹也,熱田裕司,他:姿勢と腰痛.現代医療.2002;34[増刊Ⅰ]:43-47
5) 伊藤俊一,石田和宏,他:体幹筋力測定の実際.日本腰痛会誌. 2001;7:31-34
6) 千葉恒,杉澤裕之,他:腰椎前弯角と身体機能因子の関係性の検討.北海道理学療法. 2015;32:62-67.
7) Korovessis P et al:Correlative analysis of lateral vertebral radiographic variables and medical outcomes study short-form health survey:a comparative study in asymptomatic volunteers versus patients with low back pain. J Spinal Disord Tech. 2002;15:384-390.
8) Jackson RP et al:Radiographic analysis of sagittal plane alignment and balance in standing volunteers and patients with low back pain matched for age, sex and size. A prospective controlled clinical study. Spine. 1994;19:1611-1618.