著者:種村 純 氏(写真)1),椿原 彰夫 氏1)2),植谷 利英 氏3),中島 八十一 氏4)
1)川崎医療福祉大学
2)川﨑医科大学
3)岡山リハビリテーション病院
4)国立リハビリテーションセンター
Keywords: 失語症者,社会的支援,施設類型別
失語症者は病院でのリハビリテーションが終了した後、支援が必要な場合は介護老人保健施設やデイサービスなどの介護保険サービスをを利用することが多い。これは失語症者に中高年層が多いことと、主な原因疾患である脳血管障害が介護保険の特定疾患に含まれており、40歳以上であれば介護保険が利用できるためである。一方、若年者や就労支援を求める失語症者は障害者福祉サービスを利用することになる。従来の失語症者を対象としたフォローアップ調査で、就業年代の就労率は10〜15%と低く、健忘症等の他の高次脳機能障害者と比べても低値である。コミュニケーション能力は就業上不可欠な場合が多いことを反映しているが、それだけに社会的支援を切実に必要としている対象でである。今回、介護施設、就労支援・自立訓練施設および地域活動支援センターの3者について失語症者に対する社会的支援の実態について比較した。
研究方法
平成21年度には中国地方5県の介護、福祉および就労支援施設、平成22年度には全国の自立訓練(機能訓練および生活訓練)施設、就労移行支援(一般型および資格取得型)施設、就労継続支援(A型およびB型)、平成23年度には全国の地域活動支援センターを対象として失語症者に対する社会的支援に関する実態調査を行った(表1)。
表1:失語症者に対する社会的支援の実態調査
介護保険施設 | 就労支援・自立訓練 | 地域活動支援センター | |
---|---|---|---|
実施年度 | 21年度 | 22年度 | 23年度 |
対象施設 | 中国地方の介護、福祉、就労支援機関 | 自立訓練、就労移行支援、就労継続支援 | 地域活動支援センター |
回答施設数 | 1次調査822、 2次調査45 |
1次調査828、 2次調査65 |
424 |
例年第1次調査で各施設を利用する失語症者数、失語症が利用するサービス内容、職種別の職員数および2次調査協力の可否 について調査した。第2次調査では年齢、障害程度区分、失語症の類型・重症度、発症からの経過期間、日常生活の活動レベル、失語症者に対するサービス内容、失語症者に対応する職種、失語症者が施設を利用する上で困難な点、その対応方法、社会福祉制度の利用、家庭や社会復帰の要因、失語症者の社会参加および就労支援に関して必要と思われるサービス、失語症者が利用する福祉制度の問題点について訊いた。
その結果、失語症者が利用しているサービスは通所介護、通所リハビリテーション、介護老人福祉施設、介護老人保健施設など介護サービスが多かった(表2)。
表2:施設種類別の失語症者支援の特徴
介護保険施設 | 就労支援・自立訓練 | 地域活動支援センター | |
---|---|---|---|
失語症者数 | 400 | 213 | |
失語症利用者の特徴 | 脳血管障害、運動失語、重度、発症後1年未満から10年以上まで、ADL要介助 | 20〜60歳代、脳血管障害・脳外傷、運動失語、発症1〜3年、APDLに問題 | 脳血管障害、50〜70歳代、運動失語、重度、発症後5年以上、歩行・ADL自立、APDLは要介助 |
サービス内容 | 介護福祉士、看護師、言語療法、自立訓練、社会的資源の利用相談 | 生活支援員、社会資源利用、自立訓練、職場適応のための指導 | 生活支援員、看護師、介護福祉士、レクレーション、創作活動、社会的資源の利用相談、自立生活のための訓練・支援、家族・周囲の人への指導 |
一方で福祉サービスも利用しており、就労継続支援(B型)が最も多く、ついで自立訓練(機能訓練)、自立訓練(生活訓練)、生活介護の順であった。介護保険施設を利用する失語症者の特徴を挙げると、脳血管障害を原因として、症状は運動性失語、障害は重度で、発症後の経過は1年未満から10年以上まで広く分布し、ADLは要介助であった。これに比べて就労支援・自立訓練施設の失語症利用者は20~60歳代で、原因疾患は脳血管障害とともに脳外傷も含まれ、失語型は運動失語が多く、発症後1年から3年の経過期間で、ADLは自立しているが、APDLに困難が残っていた。地域活動支援センター利用者は脳血管障害を発症原因とし、50歳代から70歳代で、運動性失語,重度で、発症後5年以上経過し、歩行およびADLは自立しているが、APDLは要介助であった。またこれらの施設種類別にサービス内容も異なっており、介護保険施設では介護福祉士、看護師が中心で、言語療法、自立訓練および社会資源の利用相談が行われていた。就労支援・自立訓練施設では生活支援員が中心となり、社会資源の利用相談、自立訓練さらに職場適応のための指導が行われていた。これに対して地域活動支援センターでは生活支援員、看護師および介護福祉士が中心となり、レクレーション、創作活動社会資源の利用相談および自立訓練が行われていた。
以上、この3年間に行った一連の調査を通じて、社会的支援のニーズとして比較的若年者の就労支援と中高年層の社会生活支援という大きな2つのニーズが存在することが明らかとなった。
本研究は厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業) 「高次脳機能障害者の地域生活支援の推進に関する研究」(主任研究者 中島八十一)により行われた。