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5症例の統合失調症患者に対する認知矯正療法の治療効果

著者:宮島 真貴 氏(写真)1),橋本 直樹 氏1)3),豊巻 敦人 氏1),井上 貴雄 氏2),加藤 ちえ 氏2),清水 祐輔 氏1)3),久住 一郎 氏1)3) 
1)北海道大学大学院 医学研究科精神病態学講座 精神医学分野
2)北海道大学病院 リハビリテーション部
3)北海道大学病院 精神科神経科

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.1 A4 (Jan. 25,2013)

Keywords: 統合失調症患者,認知矯正療法

1.序論
認知機能とは知覚・感覚より高次の処理過程で、感情を除く心理活動全般のことを指す。なかでも精神科領域では注意、記憶、遂行機能、処理速度などの情報処理的側面の強い認知機能を神経認知と呼び、統合失調症の神経認知機能の障害は、陽性症状や陰性症状よりも強く、患者の社会機能を規定する因子であることが指摘されている (Green MFら, 2000)。認知機能障害の改善にあたっては、非定型抗精神病薬の効果が多くの研究で検討されてきたが、改善効果は十分とは言えない (Woodward NDら, 2005, Keefe RSら, 2007)。これらのことから、社会機能の向上には薬剤に加えて精神科作業療法などの介入が有効と考えられ (池澤ら, 2009)、統合失調症の神経認知機能障害を治療標的にする認知リハビリテーションが積極的に取り入れられるようになってきた (中込, 2007)。
北海道大学病院精神科神経科(以下、当科)では平成22年から作業療法に加え、統合失調症患者を対象に認知リハビリテーションの一つであるNeuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation (NEAR)による介入を行っている。NEARとは教育心理学、リハビリテーション心理学、神経心理学を基盤とした治療法であり (最上, 2008, 中込, 2007)、週2回のパソコンソフトを用いた個別学習のパソコンセッションと、同治療を受けている他患者との支持的なグループワーク(以下、言語セッション)より提供される。当科では上記手法を参考に、週2回のパソコンセッションと、週1回の言語セッションを6か月間に渡って実施し、その前後で認知機能、精神症状、全般機能、社会生活状況を評価している。本稿ではこれまでにデータがそろった5例の結果について報告する。

2.方法

2.1 対象
当科において入院または外来加療中の統合失調症患者で、NEARを実施した5名の患者(男性1名, 女性4名, 平均年齢34.2歳)を対象とした。本研究は北海道大学医学部倫理委員会にて承認を受けており、対象者には治療目的や内容等について文書を用いて説明し、同意を得た。

2.2 評価
認知機能の評価としては、Wisconsin Card Sorting Test (WCST)、Continuous Performance Test (CPT)、Trail Making Test (TMT)、Word Fluency Test (WFT)、Stroop Test、Verbal Learning Test (VLT)、Reading Span Test (RST)、Visuo-spatial Working Memory Test (VMT) から成る北大式認知機能検査バッテリーを開始時と終了時に測定した。認知機能検査の結果は、当科の健常コントロール44名の平均値を0、標準偏差を1として正規化してZ値を得た。また各項目のZ値を平均してcomposite scoreを算出した。精神症状の評価を陽性・陰性評価尺度 (PANSS)、全般機能の評価を機能の全体的評価尺度(GAF)を用い、開始時と終了時に測定した。解析はSPSS20.0Jを用いてt検定を実施した。

3.結果
北大式認知機能検査では、composite scoreとTMT-Aにおいて有意な改善を認めた (composite score:開始時= -1.55, 終了時= -1.18;TMT-A:開始時= -4.95, 終了時= -2.12, P<.05) (図1)。また、精神症状の評価では、PANSSの陽性症状評価尺度において開始時17.8点から終了時15.6点と有意な改善が見られた(P<.05) (図2)。対象者の社会生活状況としては、1名が復学、1名がOT終了、その他は介入前後で変化が見られなかった。

図1:認知機能検査成績
図2:精神症状評価

4.考察
本研究では対象者数が5名、対照群無しという予備的な検討であったが、一部の認知機能と精神症状において有意な改善が見られた。TMT-Aが有意に改善したが、TMT-BやWCSTにおいて改善が認められなかったことから、遂行機能に関連した機能改善ではなく、処理速度の改善が影響していると考えられた。また、PANSSの陽性症状評価尺度において有意な改善が見られたことから、治療者との関わりや認知リハビリテーションを行うことで得られる自己効力感の向上などが影響していると考えられた。一方で、GAFによる全般機能や対象者の社会生活状況には明確な変化は認めず、この結果は認知リハビリテーションによる社会機能の改善効果が小さいという報告を裏付ける結果となったが(McGurkら, 2007)、本研究では改善傾向にあり、対象者が増えることでより明確な変化が認められる可能性も考えられる。
現在当科では計8名の統合失調症患者がNEARを修了しており、新たな参加者も増えている。NEAR導入からまだ2年半であり、今後さらに症例を積み重ね治療効果を検討していくことが重要であると考えた。

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