トップ > ジャーナルハイライト > 嚥下障害患者の認知機能、食事動作、食事形態に関する検討
ジャーナルハイライト Article ST

嚥下障害患者の認知機能、食事動作、食事形態に関する検討

著者:藤田 愛 氏 
船橋市立リハビリテーション病院

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.1 A1 (Jan. 11,2013)

Keywords: 嚥下障害患者,認知機能,食事動作,食事形態

【はじめに】
摂食・嚥下の開始にあたる先行期は、視覚・聴覚・嗅覚等を介して「食物を認識する段階」とされてきたが、その障害の詳細は明らかになっていない。
しかし、「先行期は何をどういうふうに食べるかを決定し、行動している段階」であり「食物を認識し、自分にとっての適量を適切なペースで口腔内に取り込むという一連の動作にはさまざまな高次脳機能が関与している」ため、食事に関わる高次脳機能の評価は重要である。(高野,2011)
今回、回復期リハビリテーション(以下回復期リハ)病棟入院時に摂食・嚥下障害を呈し退院時にも残存した患者について、認知機能と食事動作、食事形態との関係について検討し、摂食・嚥下障害における先行期の影響を考察した。

【対象・方法】
2010年1月~2011年12月において、退院時に3食経口摂取だが水分誤嚥を認めた回復期リハ病棟対象の摂食嚥下障害患者24名(男性24名、女性10名、平均年齢72.6歳)。水分誤嚥とは、水分は誤嚥するがペースト食など『工夫した食物は誤嚥しない』という摂食嚥下障害臨床的重症度分類(重症度分類)(図1)の段階であり、VF・VEにて評価、判定した。
主疾患は、脳血管疾患(21名)、脳挫傷(3名)であり、病巣は片側テント上(11名)、両側テント上(4名)、脳幹を含む多発病巣(6名)、小脳(2名)小脳を含む多発(1名)であった。全般的認知機能低下、注意障害、記憶障害等の高次脳機能障害、ディサースリア、失語症を認めた。
評価内容は食事形態、食事動作、認知機能であり、認知機能と食事動作、食事形態との関係を検討した。
食事形態は、退院時に実際に摂取していた主食・副食の形態を、難易度に相応した段階付けをし、8段階に分類した。実際の食事動作をFIMの食事項目(以下FIM食事)を用いて評価し、1~4点の介助、5点の監視・準備を要する群を介助群、6-7点の修正自立、完全自立の群を自立群とした。認知機能の評価には、認知・行動チェックリスト(以下チェックリスト(森田,2011))を用い、患者の日常行動から意識・易疲労性、情動、注意、記憶、判断、病識の6領域を各1~3点の4段階、合計72点満点で評価した。

図1:摂食・嚥下臨床的重症度分類

【結果】
1)食事動作の自立度と認知機能
自立群は5名、介助群は19名であった。介助群の中では、FIM5の監視・準備を要する者が10名で最も多く認められた。(図2)

図2:食事FIM

自立群と介助群のチェックリストの平均点は、自立群は66.2点、介助群は40.1点であり、自立群の平均点は介助群に比して高い結果となった。(図3)

図3:認知行動チェックリスト

2)食事形態と認知機能
重症度分類上で同程度の嚥下障害があっても、実際に摂取している食事形態には違いが認められた。認知機能が中等度以上に保たれていれば、ソフト食、軟菜食、常食と咀嚼を要する形態を摂取しており、チェックリストの点数が高いほど、より難易度の高い形態を摂取している傾向を認めた。(図4)

図4:行動評価×食事形態×FIM

【考察】
1)食事動作と認知機能
自立群は、比較的認知機能が保持されていることもあり、注意深い摂取が可能で、横向き嚥下や複数回嚥下、合間の咳払いなど誤嚥防止への配慮を自力で行うことが可能であった。一方、介助群ではFIM5(見守り)が多く、食事動作は行えても、自己の嚥下機能への配慮に乏しく動作が粗雑なため、他者による確認を要した。
食事動作の自立には、①一口量の調整、摂取のペース配分など自己の嚥下機能に配慮した動作の必要性を認識する病識、②食事の間、それらの方法を正確に行う為の注意力、判断力等が必要である可能性が示唆された。

2)食事形態と認知機能
咀嚼には、食物の堅さ、均一性、粘調性など、食物の特徴の認識と、形態に応じた咀嚼方法の選択・実行などに、認知機能の関与があると思われた。

【今後の課題】
食事というADLの設定を、嚥下機能と認知機能の両者の評価を併せて行うことは重要である。特に回復期リハ病棟対象の患者は、認知機能・嚥下機能自体に短期間の変化を認める場合も多く、現場ではその変化に合わせて食事の設定を検討し続けてきた。
今後も嚥下機能と認知機能の関係、両者と食事への影響について検討を深める必要があると考える。

●参考文献
1) 高野麻美:PT・OT・STのための脳損傷の回復期リハビリテーション 運動・認知・行動からのアプローチ.三輪書店,pp106-117,2011
2) 森田秋子,酒向正春,大村優自慈,他:失語症症例の回復期における認知機能の改善に関する検討―認知・行動チェックリストの試験的作成と運用.脳卒中 33:341-350,2011
3) 日本摂食・嚥下リハビリテーション障害学会編集:摂食・嚥下障害の評価.医歯薬出版株式会社,pp98,2011

next>>
<<back
ガイアリハビリ訪問看護ステーション募集中!
ガイアリハビリ訪問看護ステーション関西説明会、面接会のご案内!
論文投稿受付中!! 取材や掲載記事投稿を募集しています。 求人掲載募集中! セミナー情報掲載募集中