著者:中前 智通 氏(写真)(OT)1)2),四本 かやの 氏(OT)4),土橋 光伸 氏(OT)3),森田 香奈 氏(OT)3),橋本 健志 氏(MD)4)
1) 神戸大学大学院 保健学研究科 博士後期課程
2) 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部
3) 介護老人保健施設 青い空の郷
4) 神戸大学大学院 保健学研究科
Keywords: 認知症高齢者,認知機能,作業遂行能力
【背景】
近年、認知症高齢者における回想法の効果について多くの報告がある。一般に回想法は道具や材料などの刺激を用いて言語を中心として行われるが、馴染みのある作業を実際に行い、回想に繫げる介入の効果を検討した報告は少ない。
【目的】
本研究では、認知症高齢者を対象に、日本人に馴染み深い「おにぎり」「おはぎ」作りと、それにまつわる回想を行い、認知機能及び作業遂行能力に与える影響を検討した。
【対象】
対象者は、A介護老人保健施設の入所者で、(1)年齢は65歳以上、(2)性別は女性、(3)MMSE(Mini-Mental State Examination)は0点から23点の認知症患者(平均13.4±3.1点)、(4)他の精神疾患の診断はない人とした。また、情動が不安定な場合や、身体的制限のため作業遂行が困難な場合は対象者から除いた。施設および保護者より書面にて同意を得た。なお、本研究は神戸大学医学部倫理委員会で承認されている。
【方法】
1)介入内容
介入内容は、「おにぎり」「おはぎ」作りと、それを会話のきっかけとして進める回想を会食と伴に行った。頻度は、1週間に1回の介入を6週間実施した。各介入時間は1回につき40分とした。実施形態は、対象者5~6名が参加し、閉鎖グループの形態で行った。介入者は作業療法士3名で構成した。
2)評価
認知機能の評価としてMMSEを使用した。また作業遂行能力の評価は、介入1回目と6回目の対象者12名の完成品写真の変化を、介入を知らない大学生10名が評価した。作業遂行能力の評定は、①大変良くなっている、②少し良くなっている、③変わっていない、④少し悪くなっている、⑤大変悪くなっているの5段階とし、10名の中央値で評価を行った。評価の時期は、介入開始前と介入6回終了後の計2回を実施した。
【結果】
対象者10名(アルツハイマー型認知症9名、脳血管性認知症3名)が介入の最終セッションまで参加した。また、残りの2名の内1名が脳梗塞、1名が身体状態の悪化で中断となった。最終セッションまで参加出来た10名のMMSEについて、介入開始前と介入6回後の点数を比較した結果、有意差はみられなかった(ウィルコクソンの符号付順位検定、P=0.74)(表1)。
作業遂行能力については、最終セッションまで参加した対象者10名全員に改善がみられた(表2)。なお、今回この改善は、「大変良くなっている」「少し良くなっている」を改善とし、「大変悪くなっている」「少し悪くなっている」を悪化、「変わっていない」を変化なしと定義した。
表1:MMSEの変化
介入前(0w) | 介入後(6w) | |
---|---|---|
MMSE score | 13.4±3.1 | 13.2±3.4 |
表2:作業遂行能力の変化
評定 | 人数(人) |
---|---|
①大変良くなっている | 8 |
②少し良くなっている | 2 |
③変わっていない | 0 |
④少し悪くなっている | 0 |
⑤大変悪くなっている | 0 |
【考察】
本介入では、馴染みのある作業を実際に行い、それに関する回想を行った。その結果、これら2つの介入が、相互に作用し、手続き記憶を再開発すると同時に、作業の方法や手順も想起され、馴染みのある作業遂行能力の改善を導いた可能性が示唆された。また、本介入を繰り返し継続することにより、全般的な作業遂行能力の維持・改善を導く可能性があるのではないかと推測した(図1)。
今後は対象者数を増やし、コントロール群を設定した、無作為化比較研究を行う必要がある。また女性のみではなく、男性の馴染みのある作業実施についても検討が必要である。