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急性期脳卒中患者の早期トイレ動作自立に向けた治療介入方法の検討

~静的・動的バランスとその構成要素に着目して~

著者:溝端 良太 氏 (写真)1),小澤 明人 氏 1),山本 義隆 氏 1) 
1)医療法人 寿会 富永病院 リハビリテーション科

PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.1 A2 (Jul. 11,2012)

Keywords: 急性期脳卒中,静的・動的バランス能力,トイレ動作自立度

【背景】
2012年に厚生労働省が策定した「認知症施策推進5ヵ年計画」1)では、認知症のある人に対する訪問リハビリテーションがよりいっそう期待されている。これらを背景に著者らのグループは、先行研究において2003年~2012年の期間を対象に、認知症のある人に対する訪問リハビリテーションに焦点化した文献的検討を行った2)。

【目的】
本研究では、認知症者の認知機能障害及びBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)*に対する、訪問リハビリテーションの介入内容と効果の検討を目的に、先行研究から延長した2005年~2014年の過去10年間に関する国内文献の調査を行った。

*1996年に国際老年精神医学会は、代表的なBPSD(認知症の行動・心理症状)の精神症状として妄想、幻覚、抑うつ気分、睡眠障害、不安、誤認などを、行動面の異常として攻撃、興奮、徘徊不穏などの行動を挙げ、各症候の出現頻度や介護者負担の程度により、これらを3群に分類した3)

【方法】
検索期間は2005年から2014年8月までの10年間とし、データベースには、「医学中央雑誌」 及び「CINII (NII論文情報ナビゲータ)」を用いた。検索に用いたキーワードは、「認知症」、「訪問」、「リハビリテーション」、「作業療法」、「理学療法」、「看護」とし、原著論文のみの検索を行った。

【結果】
1)検索結果の分類
検索の結果、「認知症・訪問・リハビリテーション」122件、「認知症・訪問・作業療法」26件、「認知症・訪問・理学療法」47件、「認知症・訪問・看護」353件であった。その中で、訪問において認知機能障害またはBPSDの改善を目的に含み、さらにリハビリテーション介入を実施した13文献{ Randomized Controlled Trial(RCT:無作為化比較試験)1件4)、前後比較研究2件5),6)、事例検討10件7)-16)}を抽出して検討を行った。

2)介入内容
表1に示すように対象者の介入内容は、買い物や食事準備などのIADLや、カラオケや歌唱、散歩などの余暇活動、介護者やヘルパーへの援助方法の指導、センサーライトの取り付けや福祉用具の調整、3モーター式ベッドへの変更など環境調整が行われていた。また、簡単な計算や音読を行う学習療法や過去のアルバムを見ながら思い出を語る回想法、在宅高齢者生活機能向上ツールを利用した生活状態の振り返りや変更への話合い、身体機能の維持・改善への介入が報告されていた。

表1:介入内容と件数

3)介入の効果
表2に示すように、介入の効果としてBPSDの改善が12件、認知機能の改善が6件みられた。この内、行動観察によるBPSDの変化は、「興奮による口論の減少」、「便器のごみの減少」、「落ち着いて過ごす時間の増加」、「穏やかな会話場面の増加」などであった。

表2:介入効果と件数

【考察】
1)BPSDに対する介入
  鵜川は、軽度認知機能障害者に対して在宅高齢者生活機能向上ツールを用いた介入を行い、介入群27名のMMSEの平均点数に有意な増加があったことを報告した4)。奥田は、中等度のアルツハイマー病の対象者に対し、買い物、食事準備の参加などのIADLに関する介入やカラオケや歌唱などの余暇活動を用いた介入を行い、MMSEの点数の増加及びNPIの点数減少がみられたことを報告した7)。 高木は、着替えの際の介護者と認知症患者との口論を回避する方法を見つけ出し、着替え時に口論がなくなったことを報告した8)。これらのことは、在宅の認知症患者のIADLやADL、余暇活動に対しての介入が、認知症者の認知機能の維持、向上及びBPSDの減少につながる可能性を示唆している。

2)人的環境に対する介入
  谷川は、認知症患者に対して身体表現による非言語的メッセージを多く取り入れ、急かさない介助が有効であることを家族介護者に伝えた。この結果、家族介護者の指示的・強制的関わりや否定的心理状態に肯定的な変化が生じ、認知症者自身も介助を受け入れるようになったことを報告している10)。認知症患者と日々接し介助・援助をしている家族等の介護者に対して、介助・援助方法を指導、伝達していくことは、現実的で有効な介入の1つとなる可能性も示唆される。

3)物理的な環境に対する介入
  金井は、認知症患者の使用しているベッドの位置を変更し、寝返り支援ベッドから自分で操作可能な3モーター式ベッドに変えた。このことにより、日常的物事への関心の増加、夜中に起き出す回数の減少、昼間の起床時間の増加等がDBDの測定から観察されたことを報告している。また、麻痺側を壁にするようベッドの配置を変更することで、疼痛のある部分を触られる恐怖感が減少させた。その結果、認知症者の大声や暴言、介護拒否が減少したことも報告している14)。認知症者の生活を注意深く観察し、問題となる環境を可能なかぎり減じていくことも、彼らの認知機能の維持、向上及びBPSDの減少につながるのかもしれない。

図1:訪問リハビリテーションによる介入の方向性

●引用文献
1) 厚生労働省.認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)(平成25年度から29年度までの計画)厚生労働省.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh.html.
2) 中前智通,大瀧誠,梶田博之・他.認知症者に対する訪問リハビリテーションの効果-最近10年の文献検討より- 2013.神戸学院総合リハビリテーション研究;9(2):41~48.
3) 小川敬之,竹田徳則(編).認知症の作業療法 エビデンスとナラティブの接点に向けて.医歯薬出版 2009;43~54.
4) 鵜川重和.在宅高齢者生活機能向上ツールを用いた予防型家庭訪問の認知機能改善効果-無作為化比較研究 2011.北海道医誌;86(2):109-116.
5) 菅野千恵美,高橋美由樹,岡本緑.在宅における認知症高齢者の看護~学習療法~.北海道農村医学会雑誌 2012;44:56~59.
6) 山本由子,亀井智子.認知症高齢者のライフレビューに基づくメモリーブック作成とその利用による行動変化の検討 2013.聖路加看護学会誌;16(3):1~9.
7) 奥田真由美.通所リハビリテーションと訪問リハビリテーションを組み合わせた認知症高齢者の在宅支援 2007.作業療法おかやま;17:43~52.
8) 高木雅之,西田征治,近藤敏・他;在宅認知症高齢者と家族介護者に対する訪問作業療法の効果.認知症事例ケアジャーナル 2012;5(2):93~99.
9) 小笹優美,諏訪さゆり.グループホームで生活する認知症高齢者のもつ力を引き出した訪問看護師のかかわり 2012.認知症事例ケアジャーナル;5(2):113~122.
10) 谷川真澄.認知症の人の生活機能再建に向けた作業介入の3か月.認知症事例ケアジャーナル 2012;4(4):348~358.
11) 梅田千恵,森美貴.作業療法士と訪問リハビリテーションを担当し生活機能が向上した症例 2011.福井県理学療法士会;15:93-96.
12) 平野政治.軽度の記憶障害と注意集中障害を呈しながら在宅生活を送る左片麻痺者への訪問リハビリテーション支援 2010.認知症事例ケアジャーナル;2(4):372-375.
13) 田中絵美子,松井一人,吉本與史一.重度要介護者における訪問リハビリテーションの-症例-複合的アプローチの効果- 2010.認知症事例ケアジャーナル;14:119-122.
14) 金井朋美,坂口雄司,春日かほる・他.訪問リハビリテーションにおいて環境アプローチにより問題行動が改善した認知症の2事例 2005.訪問看護と介護;10(4):312~316.
15) 馬場美香,西田征治,高木雅之.認知症に対するクライエント中心の訪問作業療法 2013.作業療法;32(4):390~395.
16) 西田征治,高木雅之,近藤敏・他.興味ある活動と結びつきを促す訪問作業療法により娘とともに元気を取り戻した認知症の女性例 2014.認知症ケア事例ジャーナル;7(1):5~15.


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