著者:柏木 千恵子 氏 (写真),片岡 孝史 氏,新谷 修平 氏
財団法人操風会 岡山旭東病院 リハビリテーション課
Keywords: NIHSS,急性期脳卒中,転帰
表1:National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)
NIHSS 各項目 | スコア |
---|---|
1A.意識レベル | 0~3 |
1B.質問に対する反応 | 0~2 |
1C.命令への反応 | 0~2 |
2. 最良の注視 | 0~2 |
3. 視野 | 0~3 |
4. 顔面麻痺 | 0~3 |
5. 上肢の運動(右) | 0~4 |
(左) | 0~4 |
6. 下肢の運動(右) | 0~4 |
(左) | 0~4 |
7. 運動失調 | 0~2 |
8. 感覚 | 0~2 |
9. 最良の言語 | 0~3 |
10. 構音障害 | 0~2 |
11. 消去現象と注意障害 | 0~2 |
計 | 0~42 |
【目的】
近年,急性期病院では脳卒中患者において発症直後に転帰の予測をすることは,今後の方針決定やリハビリテーションの計画,在院日数の短縮に有用である。また,急性期,回復期,慢性期の3過程に分断され,それぞれが機能分化してきている反面で,急性期病院では,患者の長期予後を想定できないまま転院しているケースが多い。脳卒中重症度評価スケールとして急性期病院でNational Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)が広く使用されている。(表1)そこで今回,理学療法開始時のNIHSSを用いて転帰に妥当なNIHSS のカットオフ値を求め,予後予測に役立てることとする。
【方法】
対象は2009年4月から2011年3月までに脳卒中(くも膜下出血を除く)により当院に入院,その後理学療法を実施したものとし,当院のデータベースにて後方視的に調査した。今回は長期予後の検討を行うため,当院からの転帰(対象A)と当院から回復期病院を経由した後の転帰(対象B)の2通りの研究を行った。(図1)対象者の条件として,入院前の所在が自宅で初発の脳血管障害であること,理学療法開始1週間以内にNIHSSの評価がされていること,身体機能に影響を及ぼす合併症がないものとした。除外対象は病状が悪化したもの,カルテ・地域連携パスでの追跡調査が不可能であったものとした。
方法は,対象ABをそれぞれ自宅退院した群と自宅以外に転院もしくは退院した群の2群に分類し,理学療法開始1週間以内のNIHSS(以下,開始時NIHSS)を調査した。統計処理は,NIHSS のカットオフ値の算出にROC曲線を用いた。
【結果】
対象A: ROC曲線の曲線下面積は0.94となり高度の予測値を示した。また妥当なカットオフ値はNIHSS 6点であった。(図2-1)つまり,開始時NIHSSが5点以下で当院から自宅へ退院可能,6点以上で自宅以外(回復期病院,一般病院,慢性期病院,施設)へ転院もしくは退院の可能性が高いと判断できた。
対象B:ROC曲線の曲線下面積は0.71となり中等度の予測値を示した。また妥当なカットオフ値はNIHSS 12点であった。(図2-2)つまり,開始時NIHSSが11点以下で回復期病院を経由した後に自宅退院可能,12点以上で自宅以外(一般病院,慢性期病院,施設)へ転院もしくは退院の可能性が高いと判断できた。
【考察】
本研究結果より,脳卒中急性期患者に対してNIHSSを用いた転帰の予測が可能であることが示唆された。各転帰の観点から開始時NIHSSを3群に分類する。(図3)
1)NIHSS 5点以下;当院から自宅へ退院
2)NIHSS 6~11点;当院から回復期病院を経由し,その後自宅退院
3)NIHSS 12点以上;当院から回復期病院を経由し,自宅以外(一般病院,慢性期病院,施設)へ転院もしくは退院
転帰の予測によって,転院相談や自宅退院に向けての家族指導,環境設定が早期から可能になると考える。また,回復期病院を経由した後の転帰の予測を行ったことで,急性期病院でも長期目標を見据えたアプローチを行うことができる。今回,対象Bの結果においてばらつきがみられた。その理由として当院から複数の回復期病院へ転院していることで病院の特性やアプローチ方法が異なり,退院時の状態や運動機能に少なからず差が生じていたのではないかと考える。NIHSSはt-PAの適応基準の一つでもあり,Dr.やNs.も使用している評価法で共通言語として捉える事ができる。つまり,NIHSSは転帰の予測が他職種間で共有でき,チームアプローチとしての評価ツールになり得る。今回はNIHSSのみを使用した転帰の予測を行ったが単一の視点のみの予測を行うのではなく,患者の社会背景や認知機能など多面的な視点で予測を行っていく必要があると考える。