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コーチングシリーズ
「目標設定」や「目標管理」難しい話をやさしく理解する
著者:中川 昌子 氏
作業療法士歴31年。
現在総合病院リハビリテーション科の副技師長として勤務。

最近気がついたのですが、皆さんの関心ごとには傾向があるようです(ブログのタイトルによってページビューの桁が違いますので)。キーワードの一つは「目標」でしょうか。例えば「目標設定」や「目標管理」などに、困っておられますか。確かに、見慣れた文字ではあっても実践は楽ではありませんね。

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「目標管理」を取り上げてみますと、「組織目標を前提に、部門目標と個人目標を設定し、全体のベクトルを一方向に合わせ、効果的に結果を出す方法」を指す、と私は理解しています。これは管理する側の視点ですが、高度経済成長期には機能したものの、現代は組織への帰属意識も希薄になっていますから、この管理法の有効性について、頭の中に「?」マークが浮かんでいる方もいらっしゃるでしょう。

私は、目標設定面接をスタッフが「管理」される立場ではなく、自分で自分の目標を「管理」する、という視点で考えるようアプローチをしています。何故ならこの方法が、内発的モチベーションの高い人には、かなり効果的だという手ごたえを感じているからです。まさにコーチングが機能するのは、こういう人なのでしょう。自家発電装置を持っているのでは、と思うくらいどんどん先へ進みます。

一方の課題は、そうではない人(目標が設定できない人、モチベーションの低い人、先を読む力のない人)への働きかけです。

一流企業のように「モチベーションの管理は自己責任の時代」と言い切って、優秀な人材を選別するだけでいいなら(もちろん、入社後には育成の課題があります)スカッとするのかもしれませんが、労働環境の厳しい中小企業や医療現場では、そうはいきません。

難しい話をやさしく理解するために、そういう現場にいそうなスタッフをモデルにして、仮に
①(未完成なスキル)×②(不明確なモチベーション)×③(不本意な報酬)=?
という式をあてはめ、対応について少し整理をしてみました。

①未完成なスキル

現場ですでに実践されているように、この場合には教育が主体となります。現場の実感としては、新卒者であれば、ベースのばらつきを割り引いても期待値の半分以下、と想定していた方が対応しやすいような気がします。

(現代人の精神年齢)=(実年齢)-(10歳)と言われていますし、専門技術や現場の知識は教育しなければ、身につきません。根気のいるところですが、自分の新人時代が「習う、より慣れろ」だった(というより、そもそも指導者がいなかった)ことを考えると、教育できるだけの蓄積がある今の方が進歩している、とポジティブに考えられます。

中途採用者(経験者)のスキルには、かなり個人差があります。元々のベースが違いますし、経験知は人によって様々。持ち前のスキルに加えて、新しい環境から学ぶ力がどのくらいあるか、は採用を決定する大切なポイントです。

②明確なモチベーション

採用面接で、「やる気があるかないか、自分でも分かりません」などと言う人はまずいないでしょう。採用されて試用期間が過ぎ、自分なりの仕事のペースがつかめてきたころから、この課題が表面化します。チーム全体の士気が高い時はそれなりにカバーされますが、場合によっては全体のブレーキになる ことがありますから、日常業務でも面接の場面でも注意して見守っています。特に大規模なチームでは、「多数の中で、目立たず埋もれている存在」になりがち。チーム全体への影響もさることながら、そのような人は、何となく時が過ぎてしまい、経験年数のわりに実力が伴っていない、ということになりかねません。そうなるとかえって「半端なキャリア(経験)が、邪魔をする」という事態になってしまいます。これからは「実力のない人が淘汰される時代」と言われています。「資格を取ったから安心」ではないことを、知らせていく必要があります。

少し脱線しますが、スタッフのモチベーションはひとりで勝手に上がる物ではない、ことを覚えておきましょう。例えば、仲間や上司からの「承認」(ほめる)は、人にやる気を出させる効果的なスキル、と言われています。誰でも、自分に関心を持ってくれる人がいて、時々「OK」のフィードバックを送ってくれれば嬉しくなりますし、テンションも上がります。ただ、10人が10人、同じ方法で良いと言うことではありません。中には「褒められることが苦手」な人や、「黙って見ていてほしい」人もいます。伝え方も大切。こころで思ってもいないのに、口先だけで「いいね!」と言っては、逆効果になります。「気持ちと言葉を一致させて」から、伝えましょう。

③不本意な報酬

この不満は、非常に大きい(私の職場だけ?)。私たちの専門領域(リハビリテーション分野)では、専門職の価値が平成18年の診療報酬改定時に急落しました(これは、あくまでも雇用者の視点ですが)。背景には医療費削減を始めとする様々な要因があります。現場の多くのスタッフは、仕事へのやりがいを感じつつも、「こんなはずではなかった」と いう思いに苛まれています。すでに優秀な人材が他分野へ流出している、とも聞いています。現場のマネージャーが一番腐心する部分ではないでしょうか。他人ごとではなく、自分自身も「こんなはずではなかった」かもしれません。

ところでここでいう「報酬」とは、収入や地位などの目に見える報酬を意味しています。

そこで質問を一つ。「仕事から得られる報酬には、その他にどんなものがあるでしょう?」。

この質問の意味は、「あなたがここにいる理由を、目に見えない報酬についても考えてみましょう」です。

田坂広志さん(多摩大学大学院教授)によりますと、報酬には目に見えるものと見えないもの、があるそうです。見えるものの代表は、先程から出ている収入や地位ですが、目に見えない報酬とは「能力」「仕事」「成長」を指しています。いずれも、実践を通して初めて身につけることのできるもので、座学だけでは学べません。

私たちは、目に見える報酬(収入や地位)が、本来働いた結果として得られるものなのに、いつの間にか「自ら求めて得られるはずのもの」だと錯覚するようになっています。「資格さえ取れば安心」とか「就職率の高い仕事」という情報から、この道に進んだ人に多い傾向です。この「自ら求めて得られるもの」は「目に見えない報酬」の中にこそあるのですが。

この辺で、お話を最初の「目標管理」に戻します。 「現場のリーダーにできること」の結論は、「目に見えない報酬」の獲得を、自分やスタッフの個人目標に設定する、です。

「絵に描いた餅」だと思いますか。でも、最初から「目に見える報酬」だけを求めていると、人は視野狭窄に陥り、近道を求め、さらに同じ報酬では満足できなくなり、結果的に満足度が下がるそうです。一方で、「目に見えない報酬」を求めた人はしだいに良い仕事ができるようになり、高い評価を得ることになります。「急がば回れ」です。

「目標設定」や「目標管理」はマネージャ―にとって、組織からの「やらされ感」だけでは苦痛ですが、スタッフの状況を知り行動や成長を促進させる機会と捉えると、私たちの取り組み方が変わります。10年後のスタッフがどうなっているか、そんなことを考えてみると、夢も膨らみます。

中川 昌子

作業療法士歴31年。担当患者数延べ7万5千人。
リハビリテーションセンター・大学病院・精神病院・他で経験を積み、産業カウンセラー、生涯学習開発財団認定コーチ、日本コーチ協会認定メディカルコーチの資格を取得。現在総合病院リハビリテーション科の副技師長として勤務。

精神医学や深層心理学をベースにしたコーチングを得意とし、医療従事者のキャリアパスからバーンアウトまでを扱う。クライアントからは「コーチングで、物事のとらえ方や考え方の選択肢が増えました」「職場や後輩を育てるために、またお願いします」「もう、一人で悩む必要はないという気持ちになれました」等の声が届く。慣れない管理業務や後輩指導に悩む30代~40代から支持を得ている。