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ジャーナルハイライト
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PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.3 A4(Mar. 29,2013)

発達性読み書き障害児の視覚性記憶能力

-1図形、2図形記銘課題から-

著者:小田部 夏子 氏(写真)1),小町 祐子 氏2),村山 慎二郎 氏3),青木 恭太 氏3),遠藤 重典 氏1),畦上 恭彦 氏1)
1) 国際医療福祉大学 言語聴覚学科
2) 国際医療福祉大学 視機能療法学科
3) 宇都宮大学 工学研究科
key words:発達性読み書き障害児,視覚性記憶能力

1、はじめに
漢字という書記素がある日本語圏での読み書きにおいては視覚性記憶能力が重要と考えられるが、発達性読み書き障害( developmental dyslexia 、以下DD)児はその機能が低下していると報告されている(後藤ら,2010;猪俣ら,2011)。 図形の遅延再生課題で視覚性記憶をみることが多いが構成や運筆など他の能力も含まれ、純粋な視覚性記憶能力は明らかとなっているとは言い難い。 視覚的に記憶するものの量を統制することによって(1つの図形の記銘と2つの図形の記銘)視覚性の短期記憶容量について典型発達児とDD児について検討した。

2、方法
(1)対象
典型発達群:小学低学年群(1~2年)27名、中学年群(3~4年)25名、高学年群(5~6年)30名、中学生群(1~3年)26名 計108名 (表1)

表1:典型発達群のプロフィール

  学年 年齢 群計
中学生群 3
15歳±4月 5 5 10 26
2
14歳±3月 3 3 6
1
13歳±2月 2 8 10
高学年群 6
12歳±1月 7 4 11 30
5
11歳±1月 12 7 19
中学年群 4
10歳±3月 4 5 9 25
3
9歳±3月 10 6 16
低学年群 2
8歳±2月 7 7 14 27
1
7歳±4月 5 8 13

  55 53 108 108

DD群:読み書きが難しいという主訴をもつ小学5年生~中学3年生男児6名で以下の5項目を満たしている(表2)
①機能検査により視機能に問題がない
②知的に正常域である
③日常会話に問題はない
④社会性の発達の問題はない
⑤読み書きの学習が2年以上遅れている

表2:DD群のプロフィール

  WISCⅢ K-ABC 読み書き
  VIQ PIQ FIQ 継次 同時 認知 ことばの読み 文の理解 リーディング
スキル
STRAW
(漢字書取)
5年DD 90 107 98 113 100 106 68 79 小学2年以下
6年DD① 105 93 99 92 109 101 75 76 小4
2~3学期
1/20
6年DD② 92 82 86 96 97 96 87 95   1/20
中1DD 90 104 96 90 112 102 61 69   小6課題
0/20
中3DD① 95 108 101 94 100 97 65 98 小学6年以下
中3DD② 99 99 99 100 102 101 77 117 小学6年以下 小6課題
0/20

(2)課題
①図形の弁別:複数要素を区別する課題(内山、2004) 計16題
②1図形記銘課題:1つの図形を即時記銘し、次頁の4つの図形から選択させる。計8題
③2図形記銘課題:2つの図形を即時記銘し、次頁の6つの図形から2つ選択させる。計8題

図1:1図形、2図形記銘課題の実際

3、結果
(1)図形の弁別課題
典型発達群ごとに平均点および標準偏差(SD)を算出し、DD児と比較した(表3)

表3:図形弁別課題における典型発達群の平均点およびDD児の得点

  平均点(満点16点) SD
典型発達 低学年(n=27)
15.5 0.70
中学年(n=25)
15.6 0.65
高学年(n=30)
15.8 0.43
中学年(n=26)
15.8 0.40
DD群 小5DD
16  
小6DD①
16  
小6DD②
15  
中1DD
16  
中3DD①
16  
中3DD②
16  

図形を弁別することは典型発達小学低学年から可能であり、DD児においても同様に可能だった。

(2)1図形、2図形記銘課題
典型発達群の1図形記銘課題、2図形記銘課題の正答率において2図形(1図形、2図形の記銘)×4学年(低、中、高、中学)の2要因分散分析を行った。

図2:1図形、2図形記銘課題における典型発達群の平均正答率

図形の主効果は1%水準で有意( F (1,104) = 63.28 (P < 0.01) )であり、1図形の記銘の方が2図形の記銘に比し容易であった。
学年における主効果も1%水準で有意(F (1,104) = 8726.42 (P < 0.01) )であり、多重比較の結果、低学年と中学年、高学年、中学生の間に、中学年と中学生の間に1%水準で有意な差があった。学年があがるにつれて成績が良くなった。図形×学年の交互作用は有意ではなかった(F (3,104) = 1.97 (P > 0.05) )。

(3)1図形記銘課題における典型発達群とDD児の比較

図3:1図形記銘課題の典型発達群とDD児の正答率の比較

1つの図形の記銘は典型発達児とDD児に差はなかった。

(4)2図形記銘課題における典型発達群とDD児の比較

図4:2図形記銘課題の典型発達群とDD児の正答率の比較

2つの図形の記銘は典型発達児よりDD児の方が低い傾向にはあるが差があるとは言えなかった。

4、考察
典型発達低学年から図形の弁別は可能であり、DD児においても弁別には問題がなく弁別できないために記銘したものを選べないという事はないことが確認された。1図形、2図形記銘課題は学年があがるにつれ成績が良くなり、1図形より2図形の記銘の方が難しいと考えられた。DD児においても1図形より2図形の記銘の方が困難で2図形の記銘では典型発達児よりDD児の方が低い傾向にあったが差があるとはいえなかった。橋本ら(2006)は書字障害を呈したDD児に対して構成方略の影響を除外するために色分けして提示した複雑図形の遅延再生をさせているが1週間後でも良好だったという報告がある。本研究でもDD児に視覚性の記銘能力の弱さがあることは確認できなかった。しかし、2図形記銘課題ではDD児全例が典型発達児に比し低下していたことからより負荷をかけた記銘課題において差が明らかとなるということも考えられる。今後は3図形記銘などより負荷をかけた課題を作成し確認する必要があると考えられた。

この研究はJSPS科研費24531260の助成を受けました。