ページの上へ戻る

トップ > ジャーナルハイライト > 地域女性高齢者における脊柱後彎姿勢と歩行動揺性の関わりについて
ジャーナルハイライト
PT
Letter
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.3 No.8 L1(Aug. 08,2014)

地域女性高齢者における脊柱後彎姿勢と歩行動揺性の関わりについて

著者:今井田 憲 氏(写真)1),西沢 喬 氏1),小林 まり子 氏2),福田 敦美 氏3),原田 和宏 氏4)
1)医療法人社団誠広会平野総合病院 リハビリテーション課
2)医療法人社団思誠会渡辺病院 リハビリテーション科
3)弘前大学医学部附属病院 リハビリテーション部
4)吉備国際大学保健医療福祉学部 理学療法学科
key words:地域女性高齢者,脊柱後彎姿勢,歩行動揺性

地域高齢者において転倒・骨折は女性に多く1)、歩行中に発生する割合が多い2)3)と報告されている。転倒が歩行中に最も多く発生することをふまえると高齢者の歩行動態を検討する必要があると考えられる。さらに高齢者の加齢による姿勢変化の疫学的調査によると脊柱後彎変形が最も多い4)5)6)。後彎変形が進行するほど歩行能力が低下し7)、その傾向は女性に強いことがいわれている8)。さらに著しい後彎を呈する高齢者は転倒の確率が増加するといわれている9)。しかし脊柱後彎姿勢を呈する高齢者の転倒に及ぼす影響については十分に明らかにされていない。以上を踏まえ脊柱後彎姿勢が及ぼす歩行動態への影響を明らかにしていくことが課題である。
今回、地域女性高齢者を対象に歩行時の動揺性指標の特性を検証すると共に脊柱後彎度指標と歩行動揺性指標の関連性を検討したので報告する。

【方法】
対象の取り込み基準は、地域の一医療機関を利用する65歳以上の高齢女性で見守りを必要とせず10m以上歩行が可能な者とした。除外基準は感覚や運動機能が障害される神経性筋疾患を有する者、6ヶ月以内に骨折・手術を施行された者とした。最終的に31名(平均年齢77.2±7.5歳)を対象とした。
脊柱後彎度指標は背臥位において床面と頭部が平行になる距離をOcciput-to-table distance(以下OTD)として評価した(図1)。歩行動揺性指標は加速度計を用いて自由歩行中の体幹加速度信号に波形解析を加えて求めた(図2)。波形解析には時系列解析パッケージ(TISEAN)を用いた。
歩行動揺性指標と外的基準として転倒リスクに直結する歩行異常性尺度11)との相関を検討した。最後に標準化した歩行動揺性指標にOTDが及ぼす影響について重回帰分析を用いて検討した。統計解析は統計ソフトパッケージPASW18.0(IBM社)を用い、有意水準は5%とした。

図1:脊柱後彎度指標の評価方法
図2:体幹加速度の測定方法

歩行動揺性指標の特性、脊柱後彎姿勢との関連性を確認した。歩行動揺性指標は歩行異常性と中等度相関(0.57<r<0.63)関係があり、転倒リスクに関連することが示唆された。また、脊柱後彎度指標は年齢や体格・体力を調整しても、歩行中の左右方向の動揺性を規定する特性(後彎が著しい者ほど左右の動揺が大きい)が示された(表1)。歩行の安定性を考える場合、身体重心の左右方向へ移動量を微調整する必要があるといわれており12)、左右方向の動きに着目することは妥当であると考えられる。

表2:対象者7名におけるModified Falls Efficacy Scaleの介入前後の比較

脊柱後彎姿勢を呈する女性高齢者の歩行動作での動揺について部分的ではあるが、明らかにすることができた。本研究の結果より脊柱後彎に伴う歩行中の左右動揺を制御する介入方策の検討への契機になると考えられる。介入方策の検討する上で、体幹の姿勢変化が歩行中の左右動揺に関与するメカニズムに着手する必要があるのではないかと考えられ、今後の課題が示唆された。

●参考文献
1)安村誠治:高齢者の転倒・骨折の頻度.日本医師会雑誌.1999; 122(13): 1945-1949.
2)Zetterberg C, Elmerson S, et al: Epidemiology of hip fractures in Goteborg, Sweden. Clin Orthop 1984; 191: 43-52.
3)Cumming RG, Klineberg RJ: Fall frequency and characteristics and the risk of hip fractures. JAGS 1994; 42: 774-778.
4)有田親史, 小林郁雄: 老人の脊柱変形の分析.臨床整形外科, 1980; 15: 115-122.
5)安藤正明: 農村部における高齢者の腰痛と姿勢. 別冊整形外科12. 南江堂, 東京, 1987, pp14-17
6)高井逸史,宮野道雄, 他: 加齢による姿勢変化と姿勢制御. 日本生理人類学会誌. 2001; 6(2): 41-46.
7)坂光徹彦, 浦辺幸夫他: 脊柱後彎変形とバランス能力および歩行能力の関係. 理学療法科学. 2007; 22(4): 489-494.
8)岩谷力, 白木原憲明, 他: 地域在住高齢者における腰背部痛が運動・生活機能に及ぼす影響. 日本腰痛学会誌.2005;11(1):27-34.
9)Kado DM, Huang MH, et al: Hyperkyphotic posture and risk of injurious falls in older persons: the rancho bernardo study. J Gerontol Med Sci, 2007; 62: 652-657.
10)Menz HB, Lord SR, et al: Acceleration patterns of the head and pelvis when walking on level and irregular surfaces. Gait and Posture, 2003; 18: 35-46.
11)小林まりこ, 原田和宏 他: 地域高齢者における動画観察による歩行異常性尺度の評価者間信頼性. 理学療法学, 2012;39(7) 397-403.
12)Bauby CE, Kuo AD: Active control of lateral balance in human walking. J Biomech, 2000; 33(11): 1433-1440.