膝前十字靭帯再建術後の膝固有感覚回復に影響する要因
-半月板損傷合併の有無による検討-
2)広島大学病院 リハビリテーション科
3)広島大学大学院 医歯薬保健学研究科整形外科学
【目的】
膝前十字靱帯(ACL)損傷は,スポーツ活動によって発症し,膝関節不安定性を引き起こす.ACL損傷の発生頻度は日本全国で年間2~3万人と推定され1),ACL損傷の72%に半月板損傷を合併する2).半月板損傷の合併によるACL再建術後の膝機能回復について,膝不安定性と筋力の経過に関して報告されている3)が,膝固有感覚に関しての報告は少ない.本研究の目的は,ACL損傷患者の膝固有感覚を半月板損傷の合併の有無により比較検討することとした.
【方法】
対象は2009年8月~2011年7月までに当院でACL再建術を行い,術後1年までフォロー可能であった28例とした.対象の内訳は,ACL再建術に半月板修復術を追加した群(合併群)が13例(男性6例,女性7例,平均年齢21.2±7.8歳),ACL再建術のみを行った群(単独群)が15例(男性6例,女性9例,平均年齢24.9±12.6歳)であった.半月板修復術の内訳は切除術5名,縫合術6名,rasping2名であった.
膝固有感覚の測定として,運動覚の測定を実施した(図1).測定条件は開始角度15°と45°,運動方向は伸展方向・屈曲方向で,角速度0.2°/sとし測定した.得られた値から,それぞれの開始角度と運動方向の平均反応時間の患健差を算出した.測定時期は術前と術後12ヶ月で測定した.
【結果】
膝固有感覚の患健差について,単独群は開始角度15°からの伸展方向で術前3.96±1.94秒,術後12ヶ月2.56±1.89秒,開始角度45°からの屈曲方向で術前4.88±5.63秒,術後12ヶ月2.17±2.38秒とそれぞれ有意な差を認めた.合併群は術前と術後12ヶ月の膝固有感覚に有意な差を認めなかった(図2).また,単独群と合併群の群間において術前の膝固有感覚に有意な差を認めなかった.
【考察】
ACL再建術後の固有感覚の回復に関する報告は多い4)が,半月板損傷を合併したACL再建術後の膝固有感覚の検討はほとんどない.
ACL損傷後の膝固有感覚の低下は,ACL内に含まれる知覚神経の機械受容器の損傷によって生じると考えられる.半月板内にも豊富に機械受容器が存在しているので,ACL損傷に半月板損傷を合併した場合,ACLと半月板両方の機械受容器が損傷されるためACL再建術後の膝固有感覚の回復に影響を与えたと考えられる.
半月板の外科的治療を加えたACL再建術患者は術後1年で膝固有感覚の回復を認めておらず,半月板の機械受容器からの感覚入力の回復は長期間を要する可能性が示唆された.
【展望と課題】
半月板損傷を合併したACL再建術は術後膝固有感覚の回復が遅延する可能性があるため,膝固有感覚の回復に焦点を当てた運動療法の構築が必要である.また,膝固有感覚の回復程度をスポーツ復帰時期の新たな指標とすることを提案する.今後の課題として,さらに長期間経過を観察し,半月板損傷に対する処置方法の違いにより,膝固有感覚の回復が異なるかを明らかにする必要がある.
●参考文献
1)日本整形外科学会 日本関節鏡膝・スポーツ整形外科学会:前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン,2012.
2)Noyes,F. et al.:Arthroscopy in acute traumatic hemarthrosis of the knee. Incidence of anterior cruciate tears and other injuries. J Bone Joint Surg Am.62(5):687-695,757,1980.
3)Aglietti,P. et al.: A comparison between medial meniscus repair, partial meniscectomy, and normal meniscus in anterior cruciate ligament reconstructed knees. Clin Orthop Relat Res.Oct.307:165-17,1994.
4)Shidahara,H et al.:Prospective study of kinesthesia after ACL reconstruction. Int J Sports Med.32(5):386-392,2011.