地域小学校における理学療法士の職域拡大への取り組み
2)河口湖畔教育協議会
3)富士河口湖町河口小学校
リハビリテーションを取り巻く環境は日々変化し、理学療法士に求められるニーズは多様化している。臨床領域以外に理学療法士の専門性を活かせる職域を拡大する必要がある。
現実は、肢体不自由児などの施設や特別支援学級で理学療法士および作業療法士が導入されている報告1-3)はあるが、一般の小中学校への導入の報告は皆無である。
これらの教育機関では、体力低下や肥満児の増加、スポーツ障害、発達障害の他、多様な問題を抱えている。
そこで、今回はマーケティング分野で利用される「AIDMAの法則」を参考に、地域の教育協議会および一般の小中学校教員の協力を得て、理学療法士が一般の教育機関で専門性を活かせるニーズを「調査」し、理学療法の職域拡大と一般教育機関への社会的貢献を築く「社会実験」を行った。そして、地域の理学療法士が職域拡大を行う上での「戦略スキーム」を検討した。理学療法士が教育機関で専門性を活かせるニーズは、からだ作り、スポーツ傷害予防、発達障害児指導に関する講演や運動指導であった。
理学療法士が職域拡大を行う上での戦略として、人々の関心から行動に移すにはAIDMAなどの消費者行動モデルや行動変容ステージが参考となる「戦略スキーム」である。
また、今回の講演や指導を社会実験の手法に採用した理由は、対象者の感情を動かす必要があり、講演等の機会を活かして、一般の方々に理学療法士に対する強い印象を与えることが有効とされているためである。一方で、単発的な講演会や健康推進事業では継続的な行動を促すことは難しく、共同研究などの形で継続して意識を高めていく仕組みを作る必要がある。そして、様々なビジネスモデルを参考に、新しい分野への活動を広げていくことが求められている。
今回の調査および社会実験は富士河口湖畔教育協議会の協力により実施された。調査は、地域の一般の小中学校教員171名に対して講演会を開催し、その後に質問紙調査を実施した。質問紙調査は全対象者に研究の主旨を伝え、説明と同意の上実施した。この調査をもとに、傷害予防および健康増進、発達障害児の支援のカテゴリーの機関から「個別指導」の希望のニーズを調査し34名から個別連絡先の回答を得た。この34名に対して電話にて再度具体的な指導内容の希望を調査した結果、6名から講演および運動指導の依頼を得た。そして、平成24年12月から平成25年3月の期間に小学校4回(からだ作り2回、スポーツ傷害予防1回、発達障害児指導1回)、スポーツ競技団体2回(スポーツ傷害予防2回)で具体的な企画につながった。このうち、小学校1校と1つのスポーツ競技団体については継続的な共同研究の運びとなった。
講演会によって注意・関心をもたせて、対象者の記憶に残し、行動に移すまでの「AIDMAの法則」を利用したモデルを参考に実施した(図1)。一般的な行動ステージ(図2)のように、この社会実験は、最初の講演会に参加した171名の対象者のうち、34名(19.9%)からニーズを引き出し、実際にイベント企画につながったのは6名(3.5%)であった。マーケットシェアの理論によれば、市場参入には関心を示し、行動を移した2.8%から様々な戦略が適応を可能にするとされている4)。今回の結果が3.5%と類似する確率であった。
●参考文献
1)中嶋信太郎:肢体不自由児施設における小児の理学療法-当園におけるリハビリテーションの現状と課題-,理学療法ジャーナル43(5):399-405,2009.
2)渡辺敏弘:肢体不自由児施設と保健所などとの連携について.理学療法学15(6):501-507,1988.
3)眞鍋克博:特別支援教育におけるリハビリテーションの現状と課題~リハビリテーション学科を有する大学に求められているもの~.帝京科学大学紀要7:49-53,2011.
4)福田秀人,他:ランチェスター思考 競争戦略の基礎. 東洋経済新報社.pp16-17,2008.