呼吸リハビリテーションの早期介入に向けてリハビリテーションスタッフからの取り組みと効果について
呼吸器疾患のリハビリテーションにおけるリハ開始時期についての報告は少なく、一般的には運動器疾患、脳血管疾患に比べると開始時期が遅れる傾向にある。呼吸リハビリテーションを早期に介入し効果的に実施するにすることは、廃用症候群の予防やADL,QOLの向上も期待でき、入院期間短縮や経済的損失の改善も期待できる。今回、呼吸リハビリテーションの早期介入に向けてのリハビリテーションスタッフからの取り組みを紹介し、その効果を検証したので報告する。
【早期介入に向けての取り組み】
1)毎日の入院カンファレンス、病棟カンファレンス、NSTラウンド等での患者情報収集。
2)電子カルテでの入退院情報の確認。伝達機能、電話を用いての主治医への処方依頼。
3)チーム医療の強化やスタッフの知識向上、臨床場面でのスキルアップを図る為の院内呼吸専門士養成などの教育システムの構築。
4)患者ごとに設定した進行・中止基準をもとに、early mobilizationを実施。
5)バランススコアカードを用いての部署内年間目標として、呼吸リハビリテーション開始時期を明確に設定(入院より2.5日)。
対象は2006年度と2010年度に呼吸リハビリテーション介入した、肺炎群88例、82例(平均年齢80.1±10.2歳,78.2±9.2歳)と慢性呼吸不全増悪群71例、65例(平均年齢78.8±8.3歳,78.4±6.5歳)とした。リハ開始時期、在院日数、ADL変化、在宅復帰率、レセプト点数を後方視的に調査し検討した。ADL変化は入退院時の差を求め、肺炎群はFIMで慢性呼吸不全群ではNRADLを使用した。各群の比較にはマン・ホイットニ検定を用い、いずれも危険率5%以下を有意とした。
データーの収集、解析にあたり匿名化、個人情報保護、研究成果の公表等に厚生労働省の疫学研究に関する倫理指針(平成19年8月16日全部改正)に従って対応した。
2006年度と2010年度の比較において、リハ開始時期、在院日数で肺炎群、慢性呼吸不全増悪群で共に2010年度が有意に短縮した。ADL点数においても2010年度が、肺炎群は有意に向上し、慢性呼吸不全増悪群は向上傾向を示した。在宅復帰率も同様に向上し、レセプト点数は肺炎群,慢性呼吸不全増悪群共に2010年度が有意に減少した。
今回の結果は、呼吸リハビリテーションの早期介入が予後にある程度の影響を及ぼしたことが示唆されたが、全体的には包括的な取り組みの結果であるといえる。ハイリスクな症例に対しても、患者ごとに設定した進行・中止基準をもとに、early mobilizationを実施することで、廃用症候群の予防を含めた身体機能的予後の向上につながると思われる。呼吸リハビリテーションの早期実施に向けての積極的な取り組みは、ADL、QOL向上や経済的損失の改善等の効果も期待できる。また、リハビリテーションスタッフにおいては、リスク管理を含めた知識及び技術の向上やコストに対する意識改革も必要である。
呼吸リハビリテーションの早期実施は、多職種との連携やコミュニケーションスキルも必要であり、連携が円滑であればリハビリテーション効果はより向上すると思われる。呼吸リハビリテーションの早期介入においては、多職種間での包括的な取り組みが必要である。
●参考文献
1)高橋仁美、他:急性期呼吸理学療法:メディカルビュー社、東京,138~147,2010
2)高橋紳一:急性期治療での呼吸リハビリテーション:リハビリテーション医学,vol 42 ,12.2005,859~861.
3)安藤守秀:救急分野での呼吸リハの重要性とこれからの課題:日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 第21号 第3号,2011,197~202.
4)Tang CY et al:Eary rehabilitation exercise program for inpatient during an acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease.j cardiopulm Rehabil Prev.May-Jun;32(3),163-9.2012.
5)Takahashi H et al:Eary exercise traning after exacerbation in patients with chronic respiratory failure.Rev Med Suisse Nov 23;78(318),2301~2,2304~6,2011.