人工股関節全置換術患者における2ステップテストの有用性
2)医療法人社団 紺整会 船橋整形外科病院 理学診療部
【はじめに】
当院では前方進入法による人工股関節全置換術(DAA-THA)を施行しており、術後3週から筋力トレーニングを開始し、術後12週において日常生活動作やスポーツ活動を制限なく許可している。術前後の歩行能力の評価として10m歩行速度測定に加え、2ステップテストを導入している。
2ステップテストに関する先行研究では健常者等を対象に10m歩行速度、6分間歩行テスト、Functional reach、Time up and go、立ち上がりテストなどの機能評価との相関があり、日常生活の自立度や高齢者転倒リスクを簡便に推測し得ると示している。
しかし各疾患における報告は少なく、変形性股関節症患者やTHA術後患者における2ステップテストの関連性を述べた報告は渉猟し得ない。
そこで本研究の目的は、THA術前後の2ステップテスト、10m歩行速度の経時的変化と、各時期における2ステップテストと10m歩行速度の関連性を明らかにし、その有用性を検討することである。
【方法】
対象は2012年4月~8月に当院にてcroweⅠ型の進行期、末期の変形性股関節症と診断され、DAA-THAを施行した55名67股(女性49名、男性6名)、平均年齢61.9 (36-85) 歳、平均身長156.2±7.4cm、平均体重55.4±9.8kgとした。内訳は両側同時THA12名、片側THA43名であった。
測定は術前、術後3週、術後6週、術後12週時に10m歩行速度測定と2ステップテストを実施した。10m歩行速度は最大努力での10m歩行の所要時間をストップウォッチを用いて1/100秒単位で計測した。その際杖の使用は許可した。
2ステップテストとはバランスを崩さずに実施可能な最大2歩幅長(開始肢位の両側つま先から最終肢位のつま先までの距離)を身長で除した値である2ステップ値を算出する方法である(図1)。測定にはメジャーを用いて1cm単位で計測し、2回測定のうち最大値を採用した。
踏み出し脚は指定せず踏み出しやすい脚から実施し、2回目も同脚となるように実施した。統計学的処理は、2ステップ値と10m歩行速度の経時的変化には1元配置分散分析後、多重比較分析bonferroni法を、各時期における2ステップ値と10m歩行速度の関連性をSpearmanの相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした (SPSS Ver.16.0)。
【結果】
2ステップ値の経時的変化は、術前0.85、術後3週0.87、術後6週0.97、術後12週1.04を示し、術前と比較し術後6週で有意に改善した(図2)。
10m歩行速度の経時的変化は、術前1.24 m/s、術後3週1.19 m/s、術後6週1.34 m/s、術後12週1.44m/sを示し、術前と比較し術後12週で有意に改善した(図3)。
2ステップ値と10m歩行速度の相関係数は、術前r=0.72、術後3週r=0.73、術後6週r=0.70、術後12週r=0.74であり、すべての時期において高い正の相関を認めた(P<0.01)(図4)。
【考察】
村永らの先行研究では2ステップテストは広い測定空間を必要としない簡便な評価法であり、高い再現性が証明されている。
また2ステップ値1.0以上で歩行自立度が高いとされており、身長を指標としているため、医療者側だけでなく患者本人にも理解しやすい目標値の提示を可能とする。
また、現在では厚生労働省などでも転倒予防の指標として広く取り上げられ、臨床における有用性は高い。
さらに健常者等を対象に2ステップ値と最大努力10m歩行速度は高い相関があると報告している。
本研究ではTHA術前後において2ステップ値と10m歩行速度に高い相関が見られたことから、2ステップテストは変形性股関節症患者やTHA術後患者の歩行能力を簡便に推定する方法として有用であると考える。
●引用文献
1)村永信吾、平野清孝:2ステップテストを用いた簡便な歩行能力推定法の開発,昭和医会誌第63巻第3号,301‐308頁,2003