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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.3 No.1 A2(Jan. 24,2014)

大腿骨近位部骨折患者の身体機能改善に影響する因子に関する検討

著者:楠 美樹 氏(写真)1),青柳 陽一郎 氏2),岡西 哲夫 氏3),平塚 智康 氏1),粥川 知子 氏1),菊池 航 氏1),井元 大介 氏4),堀尾 和美 氏1),日沖 雄一 氏1)
1)藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院 リハビリテーション部
2)藤田保健衛生大学 医学部 リハビリテーション医学Ⅰ講座
3)名古屋学院大学 リハビリテーション学部
4)藤田保健衛生大学病院 リハビリテーション部
key words:大腿骨近位部骨折患者,身体機能改善

【要旨】
大腿骨近位部骨折は,機能予後を悪化させることが知られており,リハビリテーションでは機能改善が求められる.本研究では,退院後の快適歩行および筋力の改善が,退院時のFunctional Reach Test,5回立ち上がり時間,片足立位時間,膝伸展筋力,快適歩行速度,そして年齢,外来リハの有無とどのような関係があるのかを検討した.
対象は大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術が施行され, HDS-Rが21点以上の22名とした.快適歩行速度は,退院時の術側膝伸展筋力が弱い患者,そして歩行速度が遅い患者は退院後も改善の余地があることが示された.一方,術側膝伸展筋力は年齢の高いものほど改善が乏しいという結果となった.
本研究により,高齢な患者ほど退院後の筋力改善が乏しく,転倒発生による再骨折のリスクが高くなることが推察された.大腿骨近位部骨折患者は,退院後も外来リハを継続して行うなど,転倒による再骨折予防に努める必要性が示唆された.

【はじめに】
大腿骨近位部骨折は,高齢者に最も多い下肢骨折であり,機能予後を悪化させることが知られている1)
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインでは,機能予後に影響する因子として年齢が挙げられている2). また,退院後のリハビリテーション(以下,リハ)は身体機能の向上に有効であるとされているが,本邦におけるリハの効果に関するエビデンスは乏しい.本研究では,退院後の歩行および筋力の改善が退院時の身体機能とどのような関係があるのかを検討した.

【方法】
2009年1月から2012年11月までの間に,当院で大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術が施行され,退院3ヶ月後まで評価を行い,HDS-Rが21点以上の22名を対象とした.全対象者の平均年齢は 71.0±9.7歳,外来リハは週1回程度行い,施行群が12名,未施行群が10名であった.なお,対象者には本研究の目的と内容を説明し書面にて同意を得た上で実施した.

身体機能評価は,退院時,退院3ヶ月後にFunctional Reach Test (以下,FRT),5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度を測定した.

統計学的分析では,快適歩行速度の改善度(退院3ヶ月後の快適歩行速度−退院時の快適歩行速度)および膝伸展筋力の改善度(退院3ヶ月後の膝伸展筋力−退院時の膝伸展筋力)と退院時の身体機能との関連性を検討するために,ピアソンの積率相関係数とスピアマンの順位相関係数を算出した.さらに,快適歩行速度および膝伸展筋力の改善度を従属変数とし,FRT,5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度,年齢,外来リハの有無を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.

【結果】
快適歩行速度の改善度は,退院時の術側膝伸展筋力・快適歩行速度と有意な相関を示した(表1).重回帰分析の結果から,快適歩行速度の改善度に影響を与える因子は,退院時の術側膝伸展筋力,5回立ち上がり時間,快適歩行速度,FRTであり,有意な説明変数として抽出された(表1)

術側膝伸展筋力の改善度は,退院時の年齢と有意な相関を認めた(表2).重回帰分析の結果から,術側膝伸展筋力の改善度に最も影響を与える因子は,年齢であり,有意な説明変数として抽出された(表2)

表1:快適歩行速度の改善度
表2:膝伸展筋力(術側)の改善度

【考察】
今回の結果から,快適歩行速度の改善は退院時の術側膝伸展筋力,快適歩行速度と負の相関があることから, 退院時の術側膝伸展筋力が弱い患者,そして歩行速度が遅い患者は退院後に歩行速度の改善の余地があることが示された.一方,術側膝伸展筋力は年齢の高いものほど改善が乏しいという,先行研究3)を支持する結果となった.

高齢者の転倒予防ガイドライン,および大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン等によれば, 筋力低下が転倒発生の中で最も高いリスク因子である4)こと, 大腿骨近位部骨折は機能予後を悪化させ,反対側の骨折リスクが高くなる5)ことなどが報告されている.一方,退院後のリハが身体機能の向上に有効であるという中等度のエビデンス6)も示されている. 本研究では,高齢な患者ほど退院後の筋力改善が乏しく,転倒発生による再骨折のリスクが高くなることが推察された.以上から,大腿骨近位部骨折患者は,退院後もリハを継続して行い,転倒による再骨折予防を行う必要性が示唆された(図1)

図1

●参考文献
1) 山本精三・他:高齢者大腿骨頚部骨折患者の機能予後,生命予後および運動療法の効果.臨床スポーツ医学25:1011-1015,2008-9
2) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会(編):大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版,pp118,119,155,156,南江堂,2011
3) 楠美樹・他:大腿骨頚部/転子部骨折患者の退院後機能予後—特に外来リハビリテーションと年齢の影響について—.総合リハ 41:857-862,2013
4) 鳥羽研二:高齢者の転倒予防ガイドライン,pp94,95,メジカルビュー社,2012
5) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会(編):大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版,pp200,201,南江堂,2011
6) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会(編):大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版,pp193-197,南江堂,2011