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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.11 A2(Nov. 15,2013)

在宅介護者の介護負担とメンタルヘルスおよび心理社会的要因について

著者:齋藤 利恵 氏(写真)1),八並 光信 氏2)
1)杏林大学 保健学部 作業療法学科
2)杏林大学 保健学部 理学療法学科
key words:在宅介護,介護負担,メンタルヘルス,心理社会的要因

【背景】
近年、急速な高齢人口の増加1)に伴い、老々介護や認々介護の現状が社会問題化している2)。しかし、福祉行政の介護サービスは在宅介護を基盤としている。したがって、在宅介護者の介護負担を知ることは、介護を継続するための重要な指標となる。今回、在宅介護者の介護負担とメンタルヘルスおよび心理社会的要因の関連性について検討した。

【対象】
対象は、介護老人保健施設の通所リハビリテーションサービス(通所リハ)を利用している被介護者と同居している介護者である。
本研究は、杏林大学保健学部倫理委員会の認可を受けた後、通所リハ利用者全体に研究の説明をし、自発的に研究への参加を決定した者を対象者とした。
ただし、最終的に、被介護者と同居する介護者を1組として協力の得られた26組のうち、データが収集できなかった5組を除外した21組を対象とした(表1)

表1:介護者・被介護者の基本属性

※クラス分けは、先行研究をもとに日本語版Zarits介護負担尺度短縮版の10点未満を低負担群、10点以上を高負担群とした。

【方法】
介護者への調査項目は介護負担、メンタルヘルス、心理社会的要因の3項目で、それぞれ日本語版Zarits介護負担尺度短縮版(J-ZBI_8)3)、精神健康調査(GHQ30)4)、Sense of coherence(SOC)5)を用いた。
被介護者のADL能力は、Barthel Index(BI)6)で評価した。
分析方法は、先行研究7)よりJ-ZBI_8の10点以上を高負担群、10点未満を低負担群として、GHQ30及びSOCの得点を対応のないt検定を用いて群間比較を実施した。また、被介護者のADL能力(BI)に関しても同様に比較した。なお、有意水準は5%とした。

【結果】
高負担群と低負担群において、介護者、被介護者ともに性別・年齢に差は認められなかった。
GHQ30に関する群間比較は、合計得点で有意な差はなかった。しかし、下位項目の睡眠障害、不安と気分の変調、希死念慮とうつ傾向の項目において高負担群で有意に高値を示した(図1)
SOCに関する群間比較では、合計得点および下位項目得点において有意な差はなかった(図2)
被介護者のADL能力(BI)に関する群間比較では、有意な差はなかった。

図1:GHQ30における群間比較結果
図2:SOCにおける群間比較結果

【考察】
メンタルヘルスについて、高負担群での平均合計得点は12.8点であり、GHQ30で何らかの精神症状を有するといわれる7点以上8)の値を示した。
すなわち、高負担群の介護者のメンタルヘルスは不良であることが示唆された。また、下位項目の睡眠障害および不安と気分の変調・希死念慮とうつ傾向の項目で、高負担群が有意に高いことから、低負担群に比べると介護による睡眠不足や不安が生じ、うつ傾向に至ったと考える。

SOCは、自分自身の生活世界に対する見方・付き合い方の感覚を点数化したものであり、得点が高いほどストレスへの対処がうまく、健康な状態に回復する率が高い。また、周囲の環境や人生経験により大きく左右されるといわれている5)。本研究では、対象者が通所リハを利用しながら、在宅生活が維持できているため、両群ともにストレス対処ができていることが考えられた。
介護負担の要因として、被介護者のADL能力の差があげられる9)が、里宇10)は、ADL尺度は必ずしも介護者の負担感を反映するとは限らないと述べており、対象者数を増やして検討していく必要があると考える。

以上より、介護負担の増大は、睡眠障害や不安・希死念慮といった精神衛生上の問題を引き起こす可能性が示唆された。また、通所リハやショートステイ等を活用し介護時間の軽減をはかり、被介護者と介護者の精神的身体的健康をモニターして、問題の早期発見と対処により、在宅介護を支援することが重要であると考える。

●引用文献
1)厚生統計協会:国民の福祉の動向・厚生の指標増刊.東京,財団法人厚生統計協会,2010.p.24-27.
2)永井邦好,堀容子,星野純子,浜本律子,鈴木洋子,杉山晃子,新實夕香里,近藤高明,玉腰浩二,榊原久孝:男性家族介護者の心身の主観的健康特性.日本公衆衛雑誌,58:606-616,2011.
3)荒井由美子,田宮菜奈子,矢野栄二:Zarit介護負担尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8)の作成:その信頼性と妥当性に関する検討.日本老年医学雑誌,40:497-503,2003.
4)中川泰彬,大坊郁夫:日本語版GHQ精神健康調査票手引.東京,日本文化科学社,1985.p.12-14.
5)山崎喜比古,戸ヶ里泰典,坂野純子:ストレス対応能力 SOC.東京,有信堂,2008.p.3-117.
6)Mehoney FI, Barthel DW:Functional evaluation.Maryland State Med J,14:61-65,1965.
7)牧迫飛雄馬,阿部勉,阿部恵一郎,小林聖美,小口理恵,大沼剛,島田裕之,中村好男:在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因についての研究.日本老年医学雑誌,45:59-67,2008.
8)岩田昇:Measurement of health status by questionnaire.GHQ 一般健康調査.産業衛生学会誌,39(2):A35-36,1997.
9)永井真由美,小西美智子:在宅ケアにおける介護者の生活行動と日常生活の問題.日本看護科学会誌,20:19-27,2000.
10)里宇明元:介護負担感の概念と研究の動向.Journal of clinical rehabilitation,10:859-867,2001.