脳血管障害患者における退院後の歩行能力低下に影響を及ぼす因子
~退院時歩行FIM6点以上の自宅退院者を対象として~
2)首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 理学療法科学域
人が生活する上で「移動」は必須であり、歩行の獲得はトイレ動作・階段昇降能力など多くの生活場面に反映される。退院後のFIMの推移はケースにより多様だが、自宅退院後は5点(監視)項目が低下しやすく7点(自立)項目でも動作の未経験や環境・スピードの違いに適応できず低下を認めうる。しかし、日々の臨床を行う中で、一時的あるいは何らかの理由により入院中の歩行が自立していても退院後歩行能力低下をきたす方がいることを耳にする。文献によれば、退院後のFIMの推移に影響を及ぼす因子は様々報告されているが統合的に捉えた報告は少ない。そこで、患者様の属性・入院中の歩行機能変化・退院後の在宅生活状況を調査し退院後の歩行能力低下をきたす因子を明らかにする事を目的とした。
方法を以下に示す。過去カルテ・当院作成アンケート・Flow-FIM(藤田保健衛生大学七栗サナトリウム作成)を用い追跡郵送調査を行った。対象は、平成21年7月1日以降当院に入院し平成23年6月1日までに自宅退院された脳血管障害患者様のうち、退院時屋内歩行FIM6点以上のもので有効回答の得られた88名とした。調査項目は、一般情報(性別,年齢,診断名,障害側,合併症)、退院時情報(下肢Brs,FIM,要介護度¸住宅改修の有無,退院時期)、在宅情報(現在のFIM,運動状況,デイケア・デイサービス・訪問リハ・外来リハ・スポーツジム・接骨院等の利用の有無,自主トレ状況)とした。統計手法は退院後歩行能力を従属変数、各項目を独立変数とした単回帰分析とロジステック回帰分析を行った。
この結果、退院後の歩行能力低下は、退院時の歩行FIMが6点以上でも約3割が低下した(図1)。これは、入院中の歩行獲得までの経緯の影響は少なく、元々歩行が自立していても退院後歩行能力が低下しうることが示唆された。また歩行能力低下に影響を及ぼす因子として、女性・高齢・要介護2あること・デイサービスの利用があげられた。歩行能力低下と関連があった因子としてまず性別があげられる(図2)。
女性は、男性に比べ歩行周期のばらつきと体幹動揺が大きい歩行であり、立位バランス能力も男性に比べ低いという特徴がある。また、バランス能力は歩行能力に影響する因子であり、女性という特性自体が歩行能力低下につながりやすいことが示唆された。年齢との関連性では加齢変化に伴い歩行能力も例外ではなく低下することが示唆された(図3)。要介護2も因子として選択された(図4)。脳血管障害患者の要介護認定は、高次脳機能障害・認知症・精神面といった様々な因子を含むが、移動能力・ADL能力や立位バランス能力・歩行能力といった身体機能も適切に反映する。本研究対象者の要介護2は、身体機能レベルが低くサービスを併用利用しているという特徴があった。よって、本研究の要介護2は低機能レベルを意味していると予測され、低機能レベルの者は歩行能力が低下しやすいことが推察された。
デイサービスの利用も因子として選択された。本研究対象者のデイサービス利用者の特徴は要介護度に幅があり、下肢Brs.との関係から高次脳機能障害・認知面などの関与が予測された(図5・6)。また、デイサービスは集団リハビリを行い、精神面・運動習慣形成・生きがい作りに有効で楽しむことが主目的の施設であり、誰もが安全に行える程度の低負荷レベルの運動が中心であるという特徴がある。よって、機能・認知レベルが低く自発的な活動が少ない属性に対し、デイサービスの目的・運動負荷量を考慮すると、歩行能力の維持・向上を図るには個別の対応やチェック等が必要な可能性が示唆された。
以上より、退院後歩行能力が低下した者の属性として、年齢・性別・身体機能レベル・活動量やサービス導入の違いが影響しうることが示唆された。