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ジャーナルハイライト
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PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.10 A1(Oct. 18,2013)

寝たきり症例に対する徒手的上位頸椎アプローチの効果

~頸椎可動域変化とchin-down肢位での嚥下改善の報告~

著者:片渕 充亮 氏(写真)1),坂本 智洋 氏1),山本 幸弘 氏1),荒木 秀明 氏2)
1)医療法人八女発心会 姫野病院 リハビリテーション部 作業療法科
2)日本臨床徒手医学協会
key words:頸部硬直,嚥下,特異的マニュアルセラピー

1.はじめに
寝たきり状態にある症例で、上位頸椎部が過剰伸展位で強固に固定されることで寝返り時の介護量増加、閉口困難のため口腔内の乾燥による誤嚥性肺炎の再燃、嚥下困難による食事の経口摂取困難など、多岐にわたる重篤なADL障害を伴う症例を経験する。
今回、上位頸椎周囲筋群に着目した特異的マニュアルセラピーの効果を検討するため、嚥下訓練時、従来行われている頸部マッサージと後頭下筋群に特異的マニュアルセラピーを行い、治療直後に頸部可動域と嚥下機能を評価した。

2.対象と方法
対象は寝たきり状態で嚥下機能障害により経口摂取不能症例35例から、リクライニング車椅子乗車不能症例、嚥下反射を認めない重篤な意識障害症例25例を除外した10(男性6、女性4)例を対象とした。
内訳は肺炎後廃用症候群7例、脳血管障害後遺症3例、平均年齢82±9.1歳。症例を頸部周囲筋マッサージ群(以下、従来群)5例、後頭下筋群特異的マニュアルセラピー群(以下、特異群)5例に無作為に分類し、従来群は、後頸部全体に圧擦マッサージを20回施行、マニュアルセラピー群は後頭下筋群に頸部伸展位での横断伸張、頸部屈曲位での横断伸張、複合運動を用いた横断伸張を各10回施行した(図1,2)

図1:上位頸椎mobilization
図2:上位頸椎非特異的mobilization

治療は同一セラピスト1名で実施し、治療後、リクライニング車椅子座位で、頸部可動域(他動的屈曲)と嚥下機能(自然唾液嚥下時の喉頭挙上範囲)を嚥下造影(video-fluorography以下VF)で測定、両群間で比較した。統計学的分析はt検定を用い、有意水準を1%未満とした。VFは島津製作所製ソニアルビジョンサファイア17デジタルX線テレビシステムを使用した。

3.結果
頭頸部可動域は前屈および回旋ともに特異群が従来群より有意(p<0.01)に改善した(図3)。嚥下機能の喉頭挙上距離は、従来群では有意差を認めず、特異群では5mmから16mmへ有意(P<0.01)に改善した(図4)

図3:頸椎可動域変化
図4:喉頭挙上変化

4.考察
上位頸椎に対するマニュアルセラピーに関して、La-Toucheら1)は筋膜性機能障害による顎関節障害症例に対して、上位頸椎治療後に咬筋群の圧痛と無痛での開口動作に有意な改善を、Mansilla-Ferragutら2)は特発性頸部痛症例女性に対し環軸椎関節マニピュレーションにより三叉神経支配領域での鎮痛効果を報告している。最近ではNataliaら3)が122例の無症候性対象者に、後頭下筋群と環軸椎関節マニュアルセラピーの効果を開口動作と咬筋と側頭筋の圧痛から検討し、治療後有意な改善を報告している。
しかし、頸部硬直症例に対するマニュアルセラピーの効果検討の文献は見当たらない。今回我々は、頸部硬直に関して後頭下筋群に対するマニュアルセラピーを施行し、頸椎可動域と、嚥下機能も同様に有意な効果を得ることが出来た。
嚥下と頭頸部の関係において、臨床上、顎引き肢位が推奨され、Shanahan4)は、嚥下反射・喉頭閉鎖遅延の有意な誤嚥の減少を、Lodgeman5)は、食塊咽頭通過時間、咽頭残留の減少など頭頸部屈曲位による嚥下機能向上の統計学的有効性を示している。
今回、後頭下筋群に対する頸部マニュアルセラピーによって、後頭下筋の伸張性を獲得したことにより、顎引き肢位が可能となり、嚥下機能、頭頸部可動域改善の結果から、頸部マニュアルセラピーの有効性が示唆された。

まとめ
後頭下筋群に対する特異的マニュアルセラピー群において、頸椎可動域、嚥下機能共に有意な改善がみられたことから、寝たきり廃用防止、嚥下機能の改善において有効な手段であり、多岐にわたるADL改善が期待される。

●引用文献
1)La Touche R, Fernández-de-las-Peñas C, Fernán¬dez-Carnero J, et al. The effects of manual ther¬apy and exercise directed at the cervical spine on pain and pressure pain sensitivity in patients with myofascial temporomandibular disorders. J Oral Rehabil. 2009;36:644-652.
2) Mansilla-Ferragut P, Fernandez-de-Las Penas C, Alburquerque-Sendin F, Cleland JA, Bosca-Gandia JJ. Immediate effects of atlanto-occipital joint manipulation on active mouth opening and pressure pain sensitivity in women with me¬chanical neck pain. J Manipulative Physiol Ther. 2009;32:101-106.
3) Natalia M. Oliveira-Campelo, PT, DO1 • José Rubens-Rebelatto, PT, PhD2 • Francisco J. Martín-Vallejo et al.The Immediate effects of atlanto-occipital joint manipulation and Suboccipital muscle inhibition technique on active mouth opening and pressure pain sensitivity over latent myofascial trigger points in the masticatory muscles.J.Orthop Sports Phys Ther.2010;40(5):310-317
4)Shanahan,T.K,et al.:Chin-down posture effect on aspiration in dysphagic patients.
Arch.Phys.Med.Rehabil.,74:736-739,1993
5)Lodgemann,JA.(道 健一,道脇幸博 監訳):Lodgemann摂食・嚥下障害.医歯薬出版,東京,2000