ページの上へ戻る

トップ > ジャーナルハイライト > Balance Evaluation Systems Test(BESTest)における転倒予測cut off値の検討
ジャーナルハイライト
PT
Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.6 A4(Jun. 28,2013)

Balance Evaluation Systems Test(BESTest)における転倒予測cut off値の検討

著者:宮田 一弘 氏(写真)1),小林 正和 氏2),小泉 雅樹 氏3),岩井 優香 氏2),篠原 智行 氏2)
1)日高病院 回復期リハビリ室
2)日高病院 急性期リハビリ室
3)平成日高クリニック総合ケアセンター
key words:BESTest,転倒,バランス評価

【背景】
転倒は高齢化社会では大変重要な問題1)であり、その予防は理学療法が関わるべき事象である。近年、新たなバランス能力評価指標としてHorakら2)は、バランス障害に対して特異的に介入できるようにバランスを6つの制御システムとして捉えるBalance Evaluation Systems Test(BESTest)を開発した。制御システムはⅠ.生体力学的制限、Ⅱ.安定限界/垂直性、Ⅲ.予測的姿勢制御、Ⅳ.姿勢反応、Ⅴ.感覚適応、Ⅵ.歩行安定性である。BESTestの有用性については、諸外国ではパーキンソン病や転倒との関連を示す報告がされてきているが、本邦において転倒との関係を調査した報告はない。そこで、本研究はBESTestの転倒予測cut off値を求め、その有用性について調査することを目的とした。

【対象】
対象は2011年9月から2012年4月までの入院中に理学療法を実施しており、一人で歩行が可能であった患者45名(男性16名、女性29名、平均値±標準偏差;年齢72.3±12.1歳)とした。対象者の分類は、脳血管障害者13名、骨折者26名、脊髄損傷者5名、慢性腎不全者1名であった。対象者には本研究の目的および方法に関する十分な説明を行い、書面にて同意署名を得た。なお、本研究は所属機関の倫理審査会の承諾を得て行われた。

【方法】
退院時にBESTestを実施し、退院後半年間の転倒の有無を調査した。BESTestは6セクションに分かれており、合計27種類の検査がある(表1)。そのうち、5項目が左右それぞれで検査を行い、感覚適応は開眼または閉眼を床面またはフォームラバー上での条件の組み合わせで検査するため、合計36項目で構成されている。採点はそれぞれ0~3点で行い、各セクションおよび合計の満点に対する得点のパーセントスコアを算出する。数値が高いほどバランス能力が高いことを示す。
統計解析は、転倒群と非転倒群の2群で群間比較を行った。また、receiver operating characteristic(ROC)曲線を用いて対象者における転倒群と非転倒群を最適化するためのcut-off値、曲線によって下方に囲まれるarea under the curve(AUC)を求めた。

表1:BESTestの6セクションと下位項目

【結果】
退院後半年で転倒した患者は6名、転倒者率は20%(9/45)であった。両群において年齢、発症から検査までの期間に有意差は認められなかったが、BESTestのセクションⅠ、Ⅳ、Ⅵ、合計で有意差が認められ、転倒群が有意に低値を示した(表2)。転倒を状態変数としたROC曲線より、cut off値はBESTest69.0%であり感度82.1%、特異度83.3%、AUC79.3%であった(図1)

表2:対象者の特性と非転倒群と転倒群の比較
図1:BESTestのROC曲線

【考察】
バランスは転倒と密接に関係する要因の一つであり、その向上は転倒予防において大変重要な役割を担っている。今回、非転倒群と転倒群の2群においてBESTestの生体力学的制限、姿勢反応、歩行安定性、合計において有意差を認めた。先行研究においても、バランス能力の違いは検討されており、今回の結果は同様の傾向を示した。また、BESTestの安定限界/垂直性、予測的姿勢制御、感覚適応については有意差が認められず、これらのバランス制御システムは、歩行が一人で可能である対象者においては、一定レベルに達していることが必要条件である可能性が示唆された。
ROC曲線の結果から、有効な転倒cut off値はBESTest69%であると判断した。Leddyら3)によってパーキンソン病者の転倒に関する調査がされており、BESTest合計の転倒cut off値として69%が提唱されている。本結果は先行研究と同一の値を示し、高い感度、特異度、AUCが得られたため、BESTestは転倒予測として有用なバランス評価指標である可能性が示唆された。
今後は、BESTestにより転倒の起因となるバランス構成要素を明確に分析し、介入展開することで転倒予防における効果を検証していきたい。

●参考文献
1)大高洋平.高齢者の転倒予防 –これまでとこれから−.理学療法.27(5):617-624.2010
2)Horak FB,Wrisley DM et al.The Balance Evaluation Systems Test(BESTest) to Differentiate Balance Deficits.Phys Ther 89(5):484-498. 2009
3)Leddy AL et al. Functional gait assessment and balance evaluation systems test: reliabity, validity, sensitivity, and specificity for identifying individuals with Parkinson disease who fall. Phys Ther, 91(1): 102-113.2011