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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.6 A3(Jun. 21,2013)

当訪問リハ利用者の活動性と利用者・主介護者の情意特性との関連性

-ストレスコーピングと性格特性に着目して-

著者:佐藤 健三 氏(写真)
社会医療法人 近森会 近森リハビリテーション病院 理学療法科
key words:訪問リハ,外出頻度,主介護者,情意特性

【はじめに】
訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、対象者個々のできるだけ広く質の高い活動・参加を支援することが重要な一役割であるが1)、一筋縄ではいかない場合も少なくない。その場合、環境・個人要因の影響は知られているが2)、支援の現場において、主介護者の価値観や意向の影響を強く感じることも多い。しかしながらそれに着目した報告は少ない。そこで今回、当訪問リハ利用者の活動性と利用者・主介護者の情意特性との関連性を検証し、当訪問リハの一支援について模索したので報告する。

【対象と方法】
平成24年3月現在における当訪問リハ利用者95名中、調査が可能で合意の得られた30名の利用者と主介護者に対して(表1)、ラザルス式ストレスコーピング・インベトリー(以下、SCI)と自我態度スケール(以下、EAS)の2つの心理テストバッテリーを自己記載法にて実施した3)。また得られたSCI、EASの平均点数を、利用者の外出頻度が週2回以上の利用者(以下、活動群)とその主介護者(以下、活動群家族)各19名と、週1回未満の利用者(以下、非活動群)とその主介護者(以下、非活動群家族)各11名とに分け、比較・検討した。統計学的な比較は、活動群と非活動群間ではマン・ホイットニー検定、利用者・主介護者間では対応のあるウィルコクソン検定を用いた。

表1:対象者の内訳

【説明と同意】
対象者には、当法人の個人情報同意内容に基づき、個人情報の守秘義務と調査の目的を十分に説明し、承諾を得た上で心理テストを行った。

【結果】

  1. 活動群と非活動群:SCI全項目の得点値に有意差は認められなかったが、全体的に非活動群の得点は低く、問題への対処能力が弱い傾向にあった。またEASでは、全項目において非活動群の得点は低く、自己表現力が弱い傾向にあった。特に円熟性・自然性・適応性において有意に低かった(図1)
図1:活動群と非活動群におけるSCI・EAS平均得点の比較
  1. 活動群家族と非活動群家族:SCI全項目の得点値に有意差は認められず、両群は似通ったプロフィールであった。しかしEASでは、利用者本人同様に非活動群家族は自己表現力が弱い傾向にあった。特に、適応性において有意に低かった(図2)
図2:活動群家族と非活動群家族におけるSCI・EAS平均得点の比較
  1. 活動群と活動群家族:SCI・EAS全項目の得点値に有意差は認められず、両群は似通ったプロフィールであった(図3)
図3:活動群と活動群家族におけるSCI・EAS平均得点の比較
  1. 非活動群と非活動群家族:SCI・EASともに大きなズレが認められた。特にSCIのうち責任受容型と自己コントロール型に有意差が認められた。またEASでは自然性に有意差が認められた(図4)
図4:非活動群と非活動群家族におけるSCI・EAS平均得点の比較

【考察】
当訪問リハ対象者の非活動な一要因として、利用者の問題対処能力と社会的協調性の弱さと、利用者・主介護者における自己表現力の弱さの関与が示唆された。特に非活動群の円熟性・自然性の低さから、孤立感やうつ傾向に陥りやすい性格特性の影響が考えられた。また、利用者・主介護者の適応性の低さから、両者とも問題解決に手間を感じ、対処しようとしないためニーズが表面化せず、不満が貯まると同時に迷い・不安も強いことが伺われた。更に利用者と主介護者との問題対処型と性格特性の差の関与も否定できなかった。責任受容型・自己コントロール型の差から、非活動的な生活を変えようとしない、あるいはできない現状によって両者の関係性を安定させていることが伺われた。自然性の差は利用者のうつ傾向の強さの影響が大きいとも思われるが、主介護者の天真爛漫、傍若無人な性格特性が上回っているとすれば、利用者の活動性を高める必要性を感じていない、あるいは関心が薄いことも否めない(図5)

図5:非活動群と非活動群家族におけるストレスコーピングと情意特性

訪問リハはまず対象者個々に応じた強化因子を探ることが要といえる。そして利用者と主介護者との関係性を保ちつつも不安や迷いを生じさせないよう自然随伴性を意識した成功体験やピアカウンセリングの場を通じ、利用者の内発的動機付けを促し、自信の回復や役割への価値観を見出せるような支援が重要と考える。同時に主介護者に対しては、利用者が向かうべき適切な方向性や主介護者自身の適切な役割に気付けるよう支援を展開することが、活動性向上に繋がる一支援像となるのではないかと考える(図6)

図6:非活動群と非活動群家族に対する訪問リハの一支援展開

●参考文献
1)佐藤健三:訪問リハビリテーション.地域リハビリテーション1:475-478,2006
2)古田加代子:在宅高齢者の閉じこもりに関連する心理的要因の検討.Journal of Academy of Gerontological Nursing10:5-16,2005
3)日本健康心理学研究所:ストレスコーピングインベントリー自我態度スケール マニュアル-実施法と評価法.実務教育出版,2011
4)安次富郁哉:ホームヘルパーの心身健康度と影響因子の検討.J UOEH(産業医科大学雑誌)27:325-338,2005
5)武田 要,藤沢しげ子:理学療法学科生の実習成績と情意特性-ストレスコーピングと性格特性に着目して-.理学療法学21:131-135,2006
6)工藤麻由,奥住秀之:障害児をもつ親のストレスに関する文献検討.東京学芸大学紀要 総合教育学科系59:235-241,2008
7)斉藤圭介,香川幸次郎:脳卒中症例のストレスコーピングと理学療法.PTジャーナル47:118-128,2013/03/26