在宅要介護高齢者における災害時避難に関する現状調査
2)介護老人保健施設 プルミエール
3)目白大学 人間学部 人間福祉学科
4)埼玉県立大学
【はじめに】
政府は、災害時の避難行動に介助を必要とする高齢障害者について「災害時要支援者の避難支援ガイドライン」を策定し、避難支援や避難誘導体制の整備を課題として挙げている。災害時における高齢障害者の死亡割合は、6割以上と高く、その多くは身体が不自由で自力避難困難なため、逃げ遅れによるものと報告されている1)。したがって、理学療法士は災害前の予防対策として高齢障害者の逃げ遅れによる死亡割合を減少させるために、避難方法の想定や実際の避難方法指導を行う必要があると考える。
【目的】
本研究では、災害時の避難方法に関する意識・避難方法の想定状況・避難訓練実施状況を調査し、通所・訪問リハビリテーション(以下、通所・訪問リハ)における災害時の避難方法指導の必要性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は2カ所の介護老人保健施設で通所または訪問リハを利用している者40名(男19名, 女21名)とした。
対象者に災害時の避難方法に関して、聞き取り調査を実施した。本調査における「災害」とは、火災・震災による家屋倒壊の恐れがあり、避難を必要とする状況と定義した。調査内容について、避難方法の意識に関する項目(①避難方法の不安の有無、②避難方法の想定が重要と思うか否か、③2カ所以上の避難出口が必要か否か)、避難出口の想定状況に関する項目(④想定している避難出口の数、⑤避難出口が1カ所の理由)、居間・寝室からの避難方法の想定状況に関する項目(⑥自力による想定の有無、⑦介助による想定の有無)とした。さらに、⑧避難訓練の実施経験の有無も調査した。対象者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
災害時の避難方法に関する意識について、①避難方法に不安がある者82.5%、不安がない者10.0%、あきらめている者7.5%であった。②避難方法の想定が重要とした者は87.5%、③2か所以上の出口が必要とした者は73.3%であった(図1)。
災害時避難出口の想定状況について、④避難出口の想定が1ヶ所のみとした者は75%であり、⑤理由として、他出口について家屋構造上の問題(40.0%)、外出方法が不明(43.3%)、未改修(33.3%)、他出口からの外出に不安(30.0%)が挙げられた。(図2)
居間・寝室からの災害時避難方法の想定状況について、⑥自力および⑦介助による避難方法を想定していない者はそれぞれ76.2%と71.6%であった。(図3)
避難訓練実施状況について、⑧すべての対象者が避難訓練を実施していなかった。
【考察】
本結果より、8割以上の対象者が災害時の避難方法に不安を有し、避難方法を想定することが重要と考えていた。さらに、2カ所以上の避難出口確保についても8割以上の対象者が必要と考えていた。これらの結果から、災害時の避難方法について高い意識を持っていることが示された。
一方、避難出口の想定状況では、他出口からの外出方法が不明・未改修・他出口からの外出に不安との理由から7割以上の対象者が1カ所のみの避難出口となっていた。避難方法の想定状況についても、7割以上が自力・介助いずれの避難方法も想定されていなかったことから避難方法の準備が不十分であると考えられた。このことは、東日本大震災で60歳以上の死亡割合が64.4%と高かった2)ことにつながる結果と考えられる。また、すべての対象者が避難訓練を実施していないことから、避難に対する高い意識を持っていながらも、避難方法の準備や練習はなされていないことが明らかとなった。
市区町村では、災害時要援護者に対する具体的な支援対策として、防災意識の維持・向上や災害時避難行動の事前確認が挙げられている。要援護者の身体面・精神面に配慮し、一人一人の特徴を十分に踏まえた避難行動を確立することが重要であるとされている3)。松田らも、訪問リハによる要援護者の避難訓練の実施および事例集(実践した避難方法指導)による避難方法の情報発信が重要と報告している4)。したがって、理学療法士は防災・減災の観点から通所・訪問リハの一環として、一人一人の障害特性に配慮した災害時の避難指導を取り入れる必要があると考えた。
●参考文献
1)野竹宏彰:高齢者の居住環境と火災危険の傾向分析,日本建築学会,p255,2003.
2)平成23年版防災白書.内閣府
3)災害時要支援護者の避難対策に関する検討会:災害時要援護者の避難支援ガイドライン.内閣府
4)松田智行:地震を想定した災害時要援護者に対する避難支援.理学療法学.第38巻第6号