高次脳機能障害者の地域支援における訪問リハビリテーションの重要性
―精神科アウトリーチを参考に―
2)茨城県立医療大学 医科学センター
3)筑波記念病院 リハビリテーション部
【退院後の高次脳機能障害者】
ケアステーションコナンは平成18年に設立された通所型多機能施設であり、高次脳機能障害者が利用者の6割と高い比率を占める(図1)。高次脳機能障害の医療は、クリティカルパスの普及に見られるように、病院間においては急性期から回復期、維持期への連携が確立されてきている。しかし、病院から福祉機関への連携については十分に行き渡っていないのが現状である。当施設に関しては、高次脳機能障害の利用者は精神障害の利用者と比較して、訪問看護や訪問介護など地域の社会資源を十分に活用していない印象を受ける。そのため、本研究は精神科医療のアウトリーチ活動を参考に、高次脳機能障害者をめぐる地域支援の在り方と訪問リハビリテーションの役割を検討した。
【地域ケアを必要とする利用者】
平成19年8月から平成24年3月まで当施設に通所した高次脳機能障害を持つ利用者35名の中から、2名の職員が「複数の機関による包括的な地域ケアが必要」と印象を受けた利用者を10名選定して研究対象とした。選定後に、地域ケアが必要と職員が感じる理由を分析し、結果を表1に示した。
【訪問リハビリテーションに関するアンケート】
10名の対象者の中から、現在も当施設に通所している利用者の家族に対して訪問リハビリテーションに関するアンケートを行い、4家族から回答を得た。家族が利用者の高次脳機能障害について、どのように考えているのかを表2に示した。また、家族が訪問リハビリテーションについて、どのように考えているのかを表3に示した。このアンケートは木犀会の倫理委員会からの許可を得て行われ、回答者の家族からは書面による同意を得た。なおアンケートに答えた4家族は、全員が訪問リハビリテーションを利用した経験はなかった。
【訪問リハビリテーションと精神科アウトリーチ】
表1から、地域ケアが必要と判定した利用者については、第一に記憶障害や社会的行動障害など、施設で見られるケアの難しさが家庭でも同様に持続しているという特徴が挙げられた。第二に職場や家庭など、職員の介入が難しい場所で問題が起きているという特徴が挙げられた。表2から、高次脳機能障害者と生活する家族の悩みは、入浴や起居動作などのADL能力や身体介護の負担よりも、コミュニケーションの困難や精神的なストレスに起因することが示唆された。表3からは訪問リハビリテーションの役割と内容について、家族は十分な情報を得ていない現状が推定された。
通所型施設では勤務時間や人員配置による限界があるため、家族への介入は難しい。加えて、居宅支援を拒否する事例のように、支援者を家庭内に受け入れることに抵抗感を示す家族は少なくない。特に高齢の家族では救貧的な福祉像が強く残っており、福祉機関への拒否も存在する。そのため、高次脳機能障害者の家族支援については、病院から家庭へと連続した形で行われる訪問リハビリテーションが、医療の延長というイメージを持つことから、本人や家族に最も受け入れられ易いと想定される。
高次脳機能障害者の家族における不安や戸惑い等の問題は、精神障害者と生活する家族が抱える問題に共通する点が多い。精神科医療の地域支援として広く行われているアウトリーチでは、休日・夜間を含む24時間体制の本人と家族への迅速な訪問、相談対応、ケアマネジメントの技法を用いた他職種チームによる支援が不可欠である。高次脳機能障害者については、このアウトリーチの技法を訪問リハビリテーションが導入することで、退院から在宅へ切れ目のない地域ケアが円滑に行われる可能性が高いと考えられる。そのため主治医や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフが退院の際に、本人のADLや能力のみならず、家族内の人間関係や生活環境を視野に入れながら訪問リハビリテーションの導入を判断することで、高次脳機能障害者の地域支援の一層の充実につながると予想される。
●参考文献
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課,「精神障害者アウトリーチ推進事業のイメージ」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/chiiki.html).
浅見隆康,「地域におけるアウトリーチ活動の実践―その現状と課題―」,精神神経学雑誌,2012,114(4):421-422.
宇佐美しおり,「退院支援計画とケアマネジメント」,総合リハビリテーション,2010,38(6):527-529.