訪問STの活動報告
【はじめに】
現在、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)に携わる言語聴覚士(以下ST)は少なく、その活動はまだ確立しているとはいえない。今後の訪問STを考える一つの知見として、約2年にわたる当院での活動を分析し報告する。
【対象】
平成21年4月から平成23年10月までに当院訪問リハ利用者の中で、STが関わった37名。
【方法】
年齢、疾患、障害、発症から訪問ST開始までの期間、依頼ルート、リハ提案者、訓練後の変化、在宅で特別な食事設定がある場合の自宅での設定状況について調査し、分析を行った。
【結果】
利用者の平均年齢は70歳±13.5歳で、40~90歳代まで広範囲であった。疾患は脳血管疾患65%、変性疾患14%、その他廃用症候群などであった。主となる障害は、失語症65%、摂食・嚥下障害62%で、80%以上に全般的認知機能低下、構音障害を合併していた。発症から訪問ST開始までの期間は4年未満68%、4~10年27%、10年以上5%であった。
訪問STを退院直後から利用する場合、約80%が当院退院者であったのに対し、退院後時間を経てから利用する場合は、約60%が当院以外を退院した方(外部)であった。時間を経てから利用する場合のリハ開始提案者は、当院、外部ともPT・OTのケースが多く、続いて家族であり、外部からの依頼の場合はケアマネジャーも提案者となっていた。(図1)
ST開始後の変化については、コミュニケーション面では本人・家族共にやりとりの改善、 摂食・嚥下面では、家族の意識向上が多く認められた。(図2)
入院中にトロミ付けや食形態の工夫など特別な食事設定を指導されていた利用者は16名、その内、自宅で設定が異なっていたのは12名であった。その内容は、トロミ量の減量や食形態の変更、自己流の摂取方法・介助方法などであった。ST介入後、12名中9名で食事の安全性が向上した。【考察】
利用者は年齢・発症からの期間など様々であるが、ST訓練開始により何らかの改善を認めている。
コミュニケーション面では、本人・家族間のやりとりに改善が多く認められた。これは、失語症は長期的に機能改善を期待できることに加え、失語症についての十分な説明を受けていない家族が多く家族間のやり取りに改善の余地が多いこと、訪問での訓練が直接生活に繋がりやすいことなどが要因と考えられる。また、退院後改めてやり取りの不自由さを実感する場合も多く、訓練ニーズが高いことも要因であると思われる。在宅でコミュニケーションに問題がある場合、生活の場に即し、個々合わせて関わることができる訪問STの果たす役割は大きいと考える。
摂食・嚥下面では、食事に対する家族の意識を向上させることができた。在宅では、時間経過と共に食事設定が曖昧になったり、本人の希望に沿って設定変更していることが多い。これは、体調が安定していると安心し、本人の希望に応じたり、本人と家族の関係性、性格、食事環境などによって在宅の食事設定は大きく変化しうることが要因と推察された。そのため、在宅では本人の嚥下機能とともに個別の要因も踏まえた上で、安全に食事を継続していくための関わりが必要と考える。特に食事は自宅での生活が始まってから問題に気づくことも多く、難易度の高い食事設定をした場合、個別的に関わることができる訪問STが重要であると思われる。
訪問STの資源は未だ十分ではないが、当院訪問STの利用は当院関係者の発信によるものが大多数をしめており、訪問STの存在や活動、対象が十分に周知されていないことが伺える。在宅でST訓練の必要性はあるが発見に至らないケースが潜在している可能性が示唆される。
【まとめ】
在宅でコミュニケーション面、摂食・嚥下面の問題を抱える人は少なくない。そして、その問題には家族を含めより個別的に関わっていく訪問STが必要である。在宅で問題を抱える人を、早期に発見するためにも、訪問STの活動や存在を広めていくことは今後の課題である。