要介護高齢者の転倒恐怖感は身体活動量と健康関連QOLを低下させるのか?
2) 京都大学大学院 医学研究科
【背景】
高齢者の生活機能を低下させる要因として転倒恐怖感が注目されている.転倒恐怖感を保有することは日常生活のみならず社会的交流や余暇活動などの活動を制限し,生活の質(QOL)が低下するといわれている1)2).しかし,要介護高齢者における転倒恐怖感と身体活動量および健康関連QOLとの関連は十分に明らかにされていない.
【目的】
本研究は,在宅要介護高齢者の転倒恐怖感と身体活動量,健康関連QOLとの関連を検討することを目的とした.
【対象】
対象は,通所サービス利用の要介護高齢者33名(男性14名,女性19名,平均年齢74.0歳±9.0歳)とした.対象者は,①自立歩行が可能,②Barthel Indexが80点以上,③明らかな認知症状が認められない者の条件を満たす者とした.要介護度の内訳は,要支援1・2(19名),要介護1・2(14名)であった.倫理的配慮として,新潟医療福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には研究内容を説明して書面にて承諾の得られた者を対象とした.
【方法】
転倒恐怖感は,転倒自己効力感の指標である日本語版Fall Efficacy Scale(FES)を用いた3).FESは10項目の活動に対して,転倒せずにどの程度自信を持って活動を行うことができるかを調査する指標である(表1).日常生活活動はBarthel Index,社会生活能力は改訂版Frenchay Activities Indexを測定した.身体機能はTimed Up and Go testを測定した.身体活動量は3軸生加速度センサのアクティマーカー(パナソニック社製)を7日間装着してもらい,歩数,1~2.9METsと3METs以上の所要時間,EX(エクササイズ:METs×実施時間(時))を測定し,9時~21時(12時間)の平均値を算出した.健康関連QOLはSF-8を用いた4).SF-8の8つの下位尺度である①身体機能 (Physical Functioning: PF),②日常役割機能-身体 (Role Physical: RP),③体の痛み (Bodily Pain: BP),④全体的健康感 (General Health Perceptions: GH),⑤活力 (Vitality: VT),⑥社会生活機能 (Social Functioning: SF),⑦日常役割機-精神 (Role Emotional: RE),⑧心の健康 (Mental Health: MH)と2つのサマリースコアである身体的サマリースコア (Physical component summary: PCS),精神的サマリースコア (Mental component summary: MCS)を測定した.FES合計点の中央値によりFES高値群とFES低値群の2群に分類し,群間比較を行った.
【結果】
FES合計点の中央値は31点(12~39点)であり,FES高値群は16名,FES低値群は17名であった.2群間で統計学的に有意差の認められたものは,TUG(p<0.05),3METs以上の所要時間(p<0.05),EX(p<0.05),SF-8の下位項目の身体機能(p<0.05),日常役割機能(身体)(p<0.01),社会生活機能(p<0.05)と身体的サマリースコア(p<0.01)であった(表2).
【考察】
本研究の結果から、要介護高齢者の転倒恐怖感を保有する者は,3METs以上の身体活動量と健康関連QOLが低下していることが示された.特に健康関連QOLでは身体機能と生活機能に関する項目との関連が示されていることから,転倒恐怖感,身体活動量,身体的QOLは相互循環的な関係があると推察された(図1).これらの悪循環を断ち切るためには自宅や通所サービスでの身体活動量が減少しないように身体機能や活動性を改善する取り組みを実施し,日常生活活動の自己効力感を高めていくことが必要であると考えられた.
●参考文献
1)Lachman ME, et al. Fear of falling and activity restriction: The Survey of activities and fear of falling in the elderly (SAFE). J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci 53: 43-50, 1998
2)Yardley L, et al. A prospective study of the relationship between feared consequences of falling and avoidance of activity in community-living older people. Gerontologist.42: 17-23, 2002
3) 芳賀博:北海道における転倒に対する意識・態度の尺度化.平成7年度~平成8年度科学研究費補助金基盤研究A[1]研究成果報告書.地域の高齢者における転倒・骨折に関する総合的研究.1997,127-136
4)福原俊一,鈴鴨よしみ:SF-8™日本語版マニュアル.NPO健康医療評価研究機構,京都,2004.