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ジャーナルハイライト
ST
Letter
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.3 L2(Mar. 22,2013)

広汎性発達障害を対象としたSSTグループ訓練の取り組み

著者:古谷 まどか 氏(写真),河村 美香 氏,宮下 鮎美 氏,宮地 理紗 氏
かがわ総合リハビリテーションセンター 言語療法室
key words:広汎性発達障害,SSTグループ訓練

広汎性発達障害とは自閉症やアスペルガー症候群などを含む、コミュニケーションの障害や対人関係、社会性の障害であり「言葉でうまく説明できない」「相手の気持ちや状況理解が難しい」という特徴がある。近年、当センターの言語療法室には、知的な遅れを伴わない広汎性発達障害の子ども達の来院が増えてきている。そこで、こうしたケースを対象に平成23年度よりソーシャルスキルトレーニング(以下SST)グループ訓練を実施している。

SSTグループ訓練の目的は、①自分の周りの状況に気が付く ②相手の気持ちを考える ③自分と相手との違いに気が付く ④自分の行動をコントロールする力を養う事により、対人関係能力や社会性を伸ばすことである。対象は、IQ90前後の広汎性発達障害児5~8名。年齢は幼稚園の年長児または小学1~3年生である。評価は、知能検査、集団行動に関するソーシャルスキルチェックシート、自由記述でのアンケートを実施した。頻度は月1~2回程度である。STは5名で、進行・記録・補助など役割を分担している。訓練内容は、図1の通りである。図2の目標を立て、子ども達と確認を行い意識を促している。

図1:訓練内容 図2:グループ訓練の目標

初回の訓練では、『あったか言葉ちくちく言葉』の学習を行った。『あったか言葉』とは言われたらうれしい気持ちになる言葉で、『ちくちく言葉』は言われたらいやな気持ちになる言葉である。あったか言葉を意識して使えるように全体目標に取り入れている。

場面設定課題では、STが悪い例を演じ、子ども達に状況や対応策を説明してもらう。『あったか言葉をつかおう』『この後どうすればよいか考えよう』などのテーマで行っている。ロールプレイでは、場面設定課題で学習したことをもとに、設定された場面を実際に演じてもらう(図3)

図3:場面設定課題 ロールプレイの具体例

訓練で出てきた問題点に対して次のような工夫と環境設定を行った(表1)

表1

問題点 工夫・環境設定
ちくちく言葉が多い ・終わりの会であったか・ちくちく言葉を提示
  →ちくちく言葉が減る
発表する際にあてられていない子どもが答える ・発表の順番を提示する
・マイクを渡す→あてられていない子どもが答えることが減る
・文字カードを用いて、視覚的に注意を促す
プリントを先に配るとSTに注目できない ・プリント(教材)は必要な時に配る
ケースによって日常の問題点が異なる ・ケースに合わせて個別の目標を設定
・各ケースの問題をロールプレイに取り入れる

以下、平成23年度に実施したグループ訓練の結果である。まず、ソーシャルスキルチェックシートについて説明する。ソーシャルスキルチェックシートとは、グループ訓練初回時と全17回の訓練の終了時に家庭と幼稚園・小学校の先生に記入を依頼し、集団行動での様子を0~3の4段階で評価したものである。保護者の評価では、コミュニケーションの項目の点数が上がり、幼稚園や学校では集団での自己コントロールの項目の点数が上がった(表2)

表2:グループ訓練初回時と終了時での得点差の平均

  集団での協調性 集団での
自己コントロール
友達の関わり コミュニケーション
保護者 +0.1 -0.6 +4.1 +4.5
幼稚園
小学校
+1.0 +3.5 -0.3 +1.9

次に、グループ訓練内や幼稚園・学校に依頼したアンケートから得られた子ども達や保護者の変化点についてまとめる。子ども達は自分の発言に対して「今のはちくちく言葉だった」と意識できるようになり、ちくちく言葉が減った。また、アンケートの結果より集団生活で友達を誘えるようになっている。保護者からは、「家庭であったか言葉やちくちく言葉について話をするようになった」「注意の仕方が変わった」などの声が聞かれた。子ども達と保護者共に日常であったか言葉ちくちく言葉を意識できるようになっている。

グループ訓練では、大人との1対1の場面とは異なり、複数の子どもが参加することにより、周りを見ずに行動する、友達に感情をぶつけるといった場面がみられることもある。こうした場面を、場面設定課題やロールプレイに取り入れることにより、個別訓練では行えなかった対応が可能となった。また、保護者との情報交換を繰り返すことにより、内容を深めより日常に沿った課題設定を考えることが出来る。
さらに充実したグループ訓練を行うために個人にあった工夫や環境設定、課題設定を考えていくことが必要である。また、より集団生活の中で生かせる課題設定を行うために幼稚園や学校との情報交換を密に行うことが重要だと考える。

●参考文献
1)上野一彦 他:【特別支援教育】実践ソーシャルスキルマニュアル 明治図書
2)伴光明 他:自閉症スペクトラムSSTスタートブック チームで進める社会性とコミュニケーションの支援 学宛社