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ジャーナルハイライト
ST
Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.2 A4(Feb. 15,2013)

言語聴覚士による気仙沼市での支援活動について

著者:櫻井 貴之 氏(写真)1),竹下 知 氏1),伊藤 隆 氏2),横串 算敏 氏3),古屋 聡 氏4)
1)医療法人渓仁会 札幌西円山病院 リハビリテーション部 言語療法科
2)医療法人渓仁会 札幌西円山病院 リハビリテーション部
3)医療法人渓仁会 札幌西円山病院 診療部
4)山梨市立牧丘病院 院長
key words:言語聴覚士,仙沼市,支援活動

【はじめに】
東日本大震災の被災地で言語聴覚士(以下,ST)が支援活動を行なった事例や報告は少ない.当院から医師・理学療法士・作業療法士とともにチーム編成し,リハ支援関連10団体へ協力者登録をするも,支援要請があったのはST以外の職種だけであった.各県士会レベルでも,ST支援の情報は殆どなかった.インタ-ネットを通じ,「気仙沼巡回療養支援隊(JRS)」が在宅医療を支える目的で活動しており,そこから派生した「気仙沼口腔ケア・摂食嚥下・コミュニケーションサポート(以下,KCS)」が病院や施設または在宅へのサポートを行っていることがわかった.この活動は,山梨市立牧丘病院院長の古屋聡医師を中心として行われ,山梨・兵庫・大阪・東京・沖縄などの管理栄養士や歯科衛生士,STが月2回(1回2日程度)支援活動を行っていた.この活動に協力を要請し,当院のSTが宮城県気仙沼市にて支援活動を行なうことになった(資料1).

資料1:支援までの経緯

【気仙沼市の状況】
人口は約73,200人(平成23年3月),高齢化率は約3割と高齢化率が高い地域でありながら,STは4名,その他の摂食嚥下に専門的知識をもつ関係職種は少ない地域である.被害状況は死者1,000人以上,行方不明者300人以上,住宅などの建物被災11,000棟以上,医療機関も大きな被害を受けた(資料2・3・4).今回の震災により,病院では摂食嚥下障害や誤嚥性肺炎を繰返す患者が退院困難な状況にあり,施設に至っては被災した他施設からの受け入れにより100%を超える入所者を抱えている.

資料2:気仙沼の被害状況 資料3:気仙沼の被害状況(南三陸町含む)平成24年4月6日時点 資料4:気仙沼の医療機関の被害状況(南三陸町含む)平成24年3月31日時点

【活動内容】
当院STの支援活動は,平成23年8月より,月1回(1回2~3日間)の頻度で,1~2名を派遣した(派遣回数8回,のべ日数17日,派遣人数のべ10名).おもな活動は,病院や施設または在宅を訪問し,摂食嚥下障害やコミュニケーション障害の評価・指導を行った(資料5).継続的に関わることができた症例では,食物形態や食事回数を段階的にアップした症例もみられた.また,地元の歯科医師・歯科衛生士・看護師などに対して,摂食嚥下やコミュニケーション障害に関する知識やスキルを伝達する目的で勉強会を開催した(資料6).平成24年3月で当院STの支援活動は終了したが,KCSの活動(資料7)は今現在も続いている(平成24年12月時点).

資料5:支援活動① 資料6:支援活動② 資料7:KCS活動まとめ 平成23年5月23日~平成24年3月13日時点

【今後の課題】
気仙沼市は摂食嚥下の専門的知識をもつ関係職種が不足しているため,今後も外部からの人的支援や自立支援にむけたプログラムの提供が必要と考えられる.また,KCSでは病院や施設への支援活動は定期的に行えても,仮説住宅や在宅へのサポートは十分に行えなかった.特に,仮設住宅には多くの問題点と介入の難しい理由もあるが,在宅におけるニーズ把握に高い関心を向ける必要があると考えられる(資料8).

資料8:今後の課題

【さいごに】
東日本大震災による被災地は広く,STの支援活動を必要としている地域は多数あると思われる.当院のように被災地から離れている遠隔地では,十分な情報が得られにくいが,日頃から支援要請の情報収集に努め,迅速な対応が行なえる支援体制を可能な限り整備すべきではないかと考えられる.また,被災地への関心を風化させないために,支援活動後は外部への報告を滞りなく行なうことも,支援活動として重要なことではないかと考えられる.