障害児の母親が感じる統合キャンプの意義についての報告
【はじめに】
NPO法人しゃり(以下しゃり)は,障害や性別,年齢の枠を越えた統合キャンプ(以下ハートフルキャンプ)を行なっている.今回,複数回参加している障害児の母親に,ハートフルキャンプの意義について2時間ほど,半構造的インタビューを行ったので,その内容を報告する.
【ハートフルキャンプの紹介】
当キャンプは2002年より毎年夏休みに関東近郊で行なっており,2012年で11回になる.キャンプ参加者は表の通りである.障害児は肢体不自由児,自閉症児,知的障害児で,各班に2名程度入る.学生・社会人スタッフは高校生,作業療法学科や心理学科などの大学生,会社員で構成される.保護者は,裏方スタッフとして炊事やプログラムの補佐を行なう.本部スタッフは作業療法士,臨床心理士,看護師,保育士,会社員,主婦などでプログラムの進行や学生・社会人スタッフのフォローを行なう.
本部と保護者を除き,1班12名程度で6班に分け,2泊3日を飯盒炊爨やテントでの宿泊,オリエンテーリング等のプログラムを協力しながら過ごす.テント設営や飯盒炊爨,調理など,あらゆる場面で子ども達の挑戦したい,頑張ってみたい気持ちを尊重し,達成感や自信をつけてもらうように学生・社会人スタッフは配慮している.障害児は集団行動が苦手な子どもが多いが,少しでも他の子どもとの交流や集団にいられる様に配慮している.例えば野菜を切ることや,虫取りが得意な子,声は元気に出せる子にはいただきますの号令を掛けてもらうなど,何らかの役割を果たせられるようにしている.
表1:2012年ハートフルキャンプ参加者
区分 | 合計 |
---|---|
幼児(うち障害児) | 8名(1名) |
小学生(うち障害児) | 38(9名) |
中学生(うち障害児) | 7名(3名) |
保護者 | 11名 |
学生・社会人スタッフ | 52名 |
本部スタッフ | 21名 |
合計(うち障害児) | 137名(13名) |
インタビュー:母親と家族の紹介
- 40歳代女性で参加歴は6回
- 家族構成は夫と子ども3人の5人暮らし
- 対象児は中度の知的障害と自閉症がある中学生で参加歴7回
【結果】
1.参加動機
- 子どもに色々な経験をさせてやりたい.
- 子どもとキャンプがしたかったが経験がなく不安だった.ここなら周りの人に助けてもらいながらできそう.
2.参加へ期待すること
- 子ども達に楽しい想い出を作って欲しい.
- 他の子どもにとって,障害に対する理解のきっかけとなれば良い.
3.参加に対して不安なこと
- キャンプ経験がないため,母親自身が何をして良いか分からない.
- 自分の子どもが,他の子どもやスタッフに迷惑を掛けてしまわないか.
- トイレがうまくできるか.
4.初参加の感想
- 暑かったし,食事作りが疲れたが,他の保護者とも関われたことが,楽しかった.
- 自分の子ども達と共に参加していながら,当日はそのことを気にすることなく過ごすことができ,母親自身が,他のスタッフとの会話や作業等を楽しめ,新鮮に感じた.
5.2回目以降,参加した際に期待したこと
- 自分の子どもがプログラムに参加できる割合が増えて欲しい.
- 初回参加して楽しかったし,スタッフからも「楽しんでください」と言われ,行ったからには自分自身が楽しもうと思った.
6.2回目以降,参加した際に不安だったこと
- ボランティアスタッフが,自分の子どもの世話をして負担に感じたことが原因となり,参加しなくなってしまうのではないか.
- 自分の子どもが,他の子どもとコミュニケーションが取れるか.
7.2回目以降参加した感想
- 母親自身は,普段体験できないことができて嬉しかった.
- 自分の子どもに対しては会話時の語彙や表現方法が増えていることに気付き,成長が感じられた.
8.子どもに対する見方の変化
- 環境の変化に思ったより対応できていると感じた.
【考察:本事例から考えられること】
- 母親は,始めは子どもにとって楽しい想い出作りのために参加していたが,複数回の参加を通じて,母親自身の楽しみの場として,キャンプに参加するようになったと推測される.
- キャンプに親子で参加し,少し離れたところから,自分の子どもと他のスタッフ・子どもとの関わりを見ることで,自分の子どもに対する見方が変化するものと考えられる.
- 複数回参加することで,母親にとって,子どもの成長や変化についての気付きを得る機会になっていると考えられる.