ページの上へ戻る

トップ > ジャーナルハイライト > アラーム付き薬入れを活用した軽度認知症高齢者への服薬支援
ジャーナルハイライト
OT
Letter
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.2 No.1 L1 (Jan. 11,2013)

アラーム付き薬入れを活用した軽度認知症高齢者への服薬支援

著者:上村 智子 氏
信州大学医学部保健学科
key words:アラーム付き薬入れ,軽度認知症高齢者,服薬支援

高齢化の急速な進展により,認知症高齢者人口の増加が予測され,2015年には345万人,2025年には470万人と推定されている(厚生労働省.2012年).そして,高齢者の多くは自宅での暮らしを望んでいる.
認知症の進行抑制や合併症治療のための服薬の可否は,在宅生活の継続に多大な影響を与える.しかし軽度認知症高齢者は,記憶障害のために,自己管理下では薬の飲み忘れや過剰摂取が生じやすい1-3).介助者が定刻に促すか,手渡しをする事が確実な管理法であるが,いずれも高負担な支援である.
そこで著者らは,新たな服薬支援の選択肢として,定刻の服薬を促すアラーム付き薬入れを活用するプログラムを開発した4).軽度認知症高齢者19名(81.1±6.0歳,17名が単身で2名が高齢者世帯)に適用した結果,1ヶ月後に16名(84%)の服薬の自立度が向上した.16名中14名は,3ヶ月後もその状態を維持していた.また,高血圧や糖尿病の改善や,介護負担軽減や,当事者の自己効力感向上の効果もみられた.
本研究は継続中であり,詳細な適応と活用法をさらに明らかにすることで,在宅の軽度認知症高齢者の服薬支援法としての普及をめざしている.

対象の選択基準
①Clinical Dementia Rating(臨床的認知症尺度,CDR)0.5(疑い)または1(軽度),②薬の形状が錠剤かカプセル剤,③薬入れ使用前の服薬状況として,飲み忘れか過剰摂取か服薬の促し・手渡しが1週間に1回以上ある,④薬入れに薬を詰める介助者がいる,⑤65歳以上で在宅.

アラーム付き薬入れ
アラーム付き薬入れ(Pivotell Ltd, UK:図)は,介助者が薬を1回分ずつ区分されたポケットに予め詰めた状態で使用する.任意に設定した時刻にアラームが鳴りライトが点滅し,取り出し口に1回分の薬が出てくるものである.薬を取り出すために薬入れを引っ繰り返すとアラームが停止し,放置すると,一定の時間内は間欠的に鳴る仕様である.

図:アラーム付き薬入れ (Pivotell Ltd, UK)

活用プログラム
①導入時のOT評価:機器操作に必要な身体機能,行為開始の手がかりとしてアラームを用いる能力,機器導入への情緒的レディネス,定刻・定所の服薬習慣確立の可能性について評価する.評価で問題なければ,適用する薬や時間帯を選択し,アラーム時刻や置き場所や鍵使用の有無といった条件をカスタマイズし,使用法を指導する.
②導入後1週間の遂行評価:介助者が使用状況の確認か薬入れの残薬確認をして,その結果をOTに報告し,問題なければ使用を継続する.
③フォローアップ:薬の処方変更,病状の変化,生活習慣の変更に応じて,使用法の変更や使用中止を判断する.

活用プログラムのモニター募集
上記の「対象の選択基準」に合うクライエントを募集しています(⑤は除外も可).アラーム付き薬入れを使用する前と,使用開始から1・3・6ヶ月後の評価に協力していただくことが条件です.このようなクライエントをご担当のOTで協力いただける方は,著者までご連絡ください.本プログラムの教授とともに機器を無償貸与します.連絡先はtkamimu@shinshu-u.ac.jpです.

●文献
1. Ahn IS, Kim JH, Kim S, et al. Impairment of instrumental activities of daily living in patients with mild cognitive impairment. Psychiatry Invest. 2009;6(3):180-184.
2. Allaire JC, Gamaldo A, Ayotte BJ, Sims R, Whitfield K. Mild cognitive impairment and objective instrumental everyday functioning: the Everyday Cognitive Battery Memory Test. J Am Geriatr Soc. 2009;57(1):120-125.
3. Hayes TL, Larimer N, Adami A, Kaye JA. Medication adherence in healthy elders: small cognitive changes make a big difference. J Aging Health. 2009;21(4):567-580.
4. 上村智子:服薬支援機器.地域リハビリテーション.2012;7(8):674-677.