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ジャーナルハイライト
OT
Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.6 A2 (Dec. 14,2012)

JOAスコアを用いた人工股関節全置換術前後におけるADLの予後予測

著者:横内 圭吾 氏(写真)1),大石橋 朋子 氏1),吉田 英樹 氏1),末澤 典子 氏2),今泉 正樹 氏3),日浦 正則 氏4),廣川 晴美 氏1),塩田 直史 氏5),西崎 真里 氏1),竹内 一裕 氏1)
1) NHO岡山医療センター リハビリテーション科
2) 国立病院機構岡山市立金川病院 リハビリテーション科
3) NHO広島西医療センター リハビリテーション科
4) NHO米子医療センター リハビリテーション科
5) NHO岡山医療センター 整形外科
key words:人工股関節全置換術,JOAスコア,予後予測

人工股関節置換術(以下;THA)術後における股関節の可動域は、多くの日常生活動作(以下;ADL)の自立に関連するといわれている1)。術後の股関節可動性とADLとの関連性はいくつかの報告がある1)2)3)4)5)。しかし、術前の股関節可動性とADLに関連する内容は靴下着脱動作以外の報告が少ない6)7)8)。またTHA術前後の予後予測の指標として股関節可動域以外の評価項目を用いた報告は少ない。今回、日本整形外科学会股関節機能判定基準股関節JOAスコア(以下;JOAスコア)を用い、THA術前の身体・生活状況が術後ADLにどのような影響を及ぼし、予後予測として使用できるか調査した。

対象は平成22年4月から平成23年3月の期間に変形性股関節症・大腿骨頭壊死にてTHA目的で入院、OTの依頼があった患者のうち、パス逸脱なく自宅退院することができた32名(男性;5名、女性;27名、平均年齢;63.4±14.2)を対象とした。手術法は全例前外側アプローチであった。

THA術前の身体・生活状況の評価項目として、JOAスコアを使用した(図1)。これは1)疼痛、2)股関節屈曲可動域(以下;股関節屈曲)、3)股関節外転可動域(以下;股関節外転)、4)歩行能力、日常生活動作として5)腰かけ、6)立ち仕事、7)しゃがみ込み・立ち上り、8)階段昇降、9)車・バスなどの乗り降り、の9項目より評価する。0~100点評価され点数が低いほど股関節機能障害・日常生活能力低下を示す。退院前のADL評価として当院で使用しているリハビリチェックシート(以下;チェックシート)を使用した(図2)。これはPT・OT共通に使用する評価シートで、OT評価項目として、1)靴下着脱動作(以下;靴下着脱)、2)爪切り動作(以下;爪切り)、3)物品拾い動作、4)またぎ動作の4項目を動作可否に分けて評価した。OT介入時期はチェックシート内に記載されているPT項目終了時より1~2日後に介入した。統計学的処理として、Dr.SPSSⅡ for Windowsを用いた。統計的手法として、退院前ADL とJOAスコアの関連性としてスピアマンの順位相関係数を、ADLが可能となるJOAスコアの数値の検討として多重ロジスティック回帰分析を行った。危険率5%未満を有意水準とした。

図2:リハビリチェックシート

本研究の結果、相関が示された項目として、靴下着脱と股関節屈曲・外転に有意な正の相関を(p<0.05)、爪切りと股関節屈曲・外転・しゃがみ動作に有意な正の相関を(p<0.05)、またぎ動作と立ち仕事に有意な負の相関を示した(p<0.05)。その他JOAスコアの項目において有意な相関を示さなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果より、靴下着脱では股関節外転が選択され、判別点2.6点で判別的中率87.5%、オッズ比5.7を示した。爪切りでは股関節外転・しゃがみ動作が選択され、判別的中率90.6%、股関節外転単独での判別点は3.9点で判別的中率78.1%、オッズ比4.2を示した(図3)

図3:ADLと各要因との関係

上記結果より、術前の股関節可動域、特に外転が靴下着脱、爪切りに影響することが示唆された。先行研究ではMcGroryら9)が靴下着脱動作と股関節屈曲との関連性を、南角ら1)が爪切り動作と股関節屈曲との関連性を示唆しているが、術前可動域では股関節屈曲以外に外転が予後予測に使用できることが示唆された。また、爪切りにおいてしゃがみ動作と併せることで判別的中率が増加する結果となった。相澤ら4)は股関節屈曲・外転・外旋の可動域の総和が大きいほど爪切りの自立度が高いことを報告している。しゃがみ動作は股関節・膝関節の複合的な関節運動を伴うため、爪切りに影響を及ぼすことが示唆された。またぎ動作において立ち仕事と負の相関を示した。術後侵襲により患側の支持性・筋力低下が影響したと考えられる。

●参考文献
1) 南角学 他:人工股関節置換術後における足の爪切り方法と股関節可動域との関連性.Hip Joint 35:20-22,2009.
2) 二木亮 他:THA後の靴下着脱動作とROMの関連性.理学療法学 37(2): 339,2010.
3) 南角学 他:人工股関節置換術後患者の術後早期における靴下着脱方法と股関節屈曲可動域の関連性.理学療法科学 24(2):241-244,2009.
4) 相澤純也 他:人工股関節全置換術後の爪切り動作自立に要する股関節可動域.日本人工関節学会誌 38:308-309,2008.
5) 木下一雄 他:THA術後患者における靴下着脱動作能力の予後予測-入院中の効果的な運動指導に向けて-.Hip Joint 36:107-109,2010.
6) 木下一雄 他:人工股関節全置換術後の靴下着脱動作に関与する機能的因子の検討.Hip Joint 35:101-103,2009.
7) 藤村宜史 他:人工股関節全置換術前後における靴下着脱動作への影響要因.Hip Joint 36:180-182,2010.
8) 田中暢一 他:人工股関節全置換術前後における靴下着脱動作の自立の有無に与える影響.理学療法学 38(2): 235,2011.
9) McGrory BJ,et al:Correlation of measured range of motion following total hip arthroplasty and responses to a questionnaire.J Arthroplasty 11:565-571,1996