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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.5 A4 (Nov. 30,2012)

認知症治療病棟の現状

著者:尾嵜 遠見 氏(写真)1)2),前田 潔 氏3)
1) 神戸学院大学 総合リハビリテーション学研究科
2) 医療法人尚生会 アネックス湊川ホスピタル 重度認知症患者デイケア
3) 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部
key words:認知症治療,BPSD,入院の長期化

【序言】
急速な人口の高齢化をうけ,我が国の認知症患者数は増大の一途をたどる.いまや300万人にものぼるとされるこれら患者への対策は国民全体で取り組むべき喫緊の課題である.
認知症は種々の変性疾患や脳血管障害など,様々な原因によって引き起こされるが,その症状としては2つ,すなわち中核症状(記憶障害,失行など)と周辺症状(徘徊,暴力,抑うつなど)とに大別される.後者はBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)とも呼ばれ,臨床上,また介護上で特に問題とされる事が多い.
認知症治療病棟は精神科病院に設置され,著しいBPSDを有する患者の急性期医療を提供する場として位置付けられるものである.この病棟は全国に460施設ほど存在し,他の医療機関では受け入れ困難な認知症患者に対して専門的な入院加療を行い,速やかに自宅,施設へと退院させる役割を担っている.
しかし近年,この認知症治療病棟において入院の長期化などの問題が報告されている.

【目的と方法】
認知症治療病棟における入院の長期化の現状と,それに関連する要因の把握の為に調査を行った.対象は社団法人日本精神科病院協会に属し,認知症治療病棟を有する405病院とした.調査票は郵送にて送付,郵送にて回収し,平成23年9月度の状況について質問した.

【結果】
本調査項目は多岐にのぼるため,一部の結果のみ報告する.
105病院から回答があり(回収率25.9%),分析対象病床数は6801床であった.

入院期間
全105病院の在院日数の平均は722.9日,中央値は478.2日であった.在院日数別の患者数割合では1年以上の入院患者が59%を占めた(図1)

入院期間が長期化している理由
退院できない理由としては「BPSDの為」が40%と最も多く,次いで「施設などの入所待ち」が23%,「退院可能だが,家族が拒否」が17%と、上位3つで全体の8割を占めた(図2)

図1:在院日数別の患者数割合 図2:退院できない理由の割合

ADL
歩行について,「行っていない」が45%と最も多く,「自立」が39%,「介助」が15%であった.食事について,「自立」が58%と最も多く,「部分介助」が20%,「全面介助」が16%,「胃瘻・経管等により管理」が5%であった.

身体合併症治療
身体合併症の治療を行う上で,医師数,看護師数,医療機器・設備に関して何らかの不足を感じている割合は,それぞれ72%,73%,80%であった.身体合併症治療の為に転院する患者は50床あたり月平均1.2名であり,転院要請時に受け入れを拒否される事を75%の病院が経験しており,早期退院させられる事を91%の病院が経験していた.

BPSD
高頻度に出現するBPSD,および管理(治療)が困難であるBPSDの種類では両者で「介護抵抗」が最も多かった.高頻度では次いで「徘徊」が,管理(治療)困難では次いで「暴行」が挙げられた(図3)
管理が困難なBPSDを有する患者に対し,28%の病院が最近1か月間に保護室を使用していた(月平均1.9名).また,53%の病院が最近1か月間に身体拘束を行っていた(月平均5.7名).

図3:高頻度,管理困難とされたBPSの種類

リハビリテーション
作業療法士は全ての病院において配置されており,44.2床あたり1名が配置されていた.理学療法士は8%の病院で配置されており,配置のある場合,平均1.3名が業務にあたっていた.言語聴覚士は3%の病院で配置されており,配置のある場合,平均0.7名が業務にあたっていた.高頻度に行われているリハビリテーションの種類は「活動療法」が最も多く,次いで「音楽療法」「ADL訓練」などであった(図4)

図4:高頻度に行うリハビリテーションの種類

【考察】
認知症治療病棟では介護抵抗や徘徊といったBPSDを有する患者を受け入れ,一定の効果をあげているが,4割の患者が退院できない理由として「BPSDの為」とされている.長期にわたって加療が必要な難治性のBPSDを有する患者の処遇に関しては,今後検討されなければならない課題であろう.
一方,BPSD以外の理由により退院できない患者は6割を占めていた.低いADL能力や不十分な身体合併症治療に関する状況からは,「BPSDに代わる退院阻害因子」⇒「入院の長期化」⇒「ADL低下・合併症発症・合併症治療不十分」⇒「入院の長期化」といった負のループの存在が考えられた.患者のほとんどが高齢である事,現状での入所介護施設等の不足などを考慮すると,認知症治療病棟においては純然たる「精神科リハビリテーション」のみでは不十分であり,作業療法士の加配や理学療法士・言語聴覚士等の配置も必要であると考えられる.