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ジャーナルハイライト
ST
Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.5 A2 (Nov. 16,2012)

介護・看護職者の言語聴覚士に関する認識の現状と連携促進のための課題

~言語聴覚士不在地域での研修より~

著者:坊岡 峰子 氏1),瀬戸口 美香 氏2)
1) 県立広島大学 保健福祉学部 コミュニケーション障害学科
2) 加治木温泉病院 総合リハビリテーションセンター
key words:STの専門性,連携促進,言語聴覚士不在地域

【はじめに】
介護保険領域では言語聴覚士(以下,ST)に対する認識は高まってはいるが,STの指導を受けている利用者は2割弱であることが報告されている(全国失語症友の会連合会2009).そこで本研究ではST不在地域において,介護保険事業に携わる介護・看護職者に対して,STの専門性に関する研修を実施した.その結果より,介護・看護職者のSTの専門性に関する認識の現状を把握すると共に,STの専門性を他職種者に理解してもらい,連携を強めるために必要な課題を考察する.

【対象】
ST不在のA郡で介護保険事業に携わる介護・看護職者.なおA郡は人口約11,600人(平成23年1月),高齢化率31.3%(平成23年3月)の過疎化,高齢化の進む地域である.

【方法】
A郡の地域ケア部会にてSTの専門性や言語障害の理解と支援に関する120分間の研修を実施.研修の効果を把握するために,研修後に,基本属性4項目,STの専門性に関する認識4項目,研修会に関する感想5項目の全13項目で構成したアンケートを配布・回収した.研修内容はSTの専門性,失語症・構音障害・認知症・聴覚障害の症状の理解と支援の方法,また会話相手のコミュニケーションスキル習得の重要性についてであった.

【結果】
研修の最後まで参加した24名全員から回答を得た.

基本属性
回答者は7割が女性,年齢は50代が4割と一番多く,続いて30・40代であった.職種は,介護職者が5割を占め,次に介護支援専門員であり,取得している資格は,介護福祉士が5割,介護支援専門員4割,看護師が2割などであった(複数回答)(図1)

図1:研修後のアンケート結果 回答者の属性

STの専門性に関する認識
STの名称を研修前から知っていたのは23名(95.8%)であったが,対象とする障害は失語症24名(100%)に対し音声障害10名(41.7%)など偏りがみられた(図2).STの専門性の理解は「よく理解できた」20名(83.3%),「少し理解できた」4名(16.7%)であった.また研修後,19名(79.2%)がSTの専門領域の認識に変化があったと回答した.その変化の内容は,STが専門とする領域の幅広さ,多様性などが挙げられていた(図3)

図2:研修後のアンケート結果 職種名(ST)と対象とする障害の既知
図3:研修後のアンケート結果 STの専門性など認識に対する変化

また,STと日常的に連絡をとれるなら聞きたいことが「有る」は17名(70.8%)で,内容は図4に示す通り,担当利用者に最適なコミュニケーション方法や必要なリハビリテーションなど,日常場面での困り事を相談したいという内容であった.

図4:研修後のアンケート結果 STに聞きたいことの有無とその内容

コミュニケーション障害に関する認識
研修内容について,回答者全て(24名)が仕事に役立ちそうと回答した.研修を受けての新たな発見および今後の仕事に役立つと思う内容としては,「実際場面での利用者とのコミュニケーション方法」,「生活歴から利用者をよく知ること」,「認知症と言語障害を間違えることがあるが認知症と決めつけてはいけないと知った」などが挙げられていた.
コミュニケーション障害に関する研修会を今後も受けたい人は18名(75.0%)であった.希望する研修内容は,コミュニケーション方法(5名),認知症について(3名)などであった.

【考察および今後の課題】
研修により,医療・保健・福祉専門職にSTの専門領域やコミュニケーション障害に関する認識,障害に合わせたコミュニケーションの必要性などが理解された.これは,要介護者に多くみられるコミュニケーション障害を対象として,その症状や適切なコミュニケーション方法をスライドやビデオで具体的に示した効果であると考える.
これらの結果より,他職種者に対する専門研修では,参加者が対象とする障害を念頭におき,具体的かつ視覚的に支援方法などを示すことが有効であり,連携の基盤を築くためにも重要であると考える.