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ジャーナルハイライト
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Letter
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.4 L1 (Oct. 26,2012)

これからの言語聴覚士の役割

~「失語症リハビリ教室」の可能性~

著者:花家 薫 氏
大阪府 堺市 健康部 健康医療推進課
key words:失語症,脳血管疾患,機能回復・維持

失語症は脳血管疾患の約30%に発症し(1)(2)、その47.3%は退院後、家庭復帰している(3)(4)。厚労省の2008年度患者調査(5)によると脳血管疾患の患者数は1,339,000人といわれ、失語症者は401,700人いると推計される。また、退院後に継続した訓練が必要であるにも関わらず、実施できていない失語症者はその30~47%に昇ると推測されている(6)。現在では全国で18,960人(2011年4月時点)(図1)が言語聴覚士の資格を有している(7)が、特に通院リハビリや介護保険事業所での勤務が少ない(図2)。そのために長期にわたる言語聴覚療法の効果は明らかであるにも関わらず、生活期において十分な言語リハビリを受け難い現状がある。

こういった背景の中、失語症者が住み慣れた地域で在宅生活をするには介護・医療保険のサービスだけでなく、地域住民が主体となったサービスの供給やボランティア活動、自主グループの取り組みなどが必要である。そのためには、失語症の病識を理解した言語聴覚士が、直接失語症者に働きかけて言語に関する残存機能を活かすことばかりではなく、その家族や失語症者と関わる人々の理解を深めて、よい関わりのできる者を増やすことも、失語症者の生活を支える言語聴覚士の役割と考える。

"人と人とのつながり"が失語症をダイナミックな変化へと導く!
失語症があって地域で生活するという現実には、日常会話が困難で人との交流に消極的になること、気持ちや考えをことばで伝えられないことから自分に自信をもてないといった問題がある。そのような場合、せっかくリハビリによって改善した機能が逆戻りしたり、閉じこもり生活につながることもある。

写真

「生活」の側面から、人とのつながりを意識して関わることが重要で、生活の中で同じ障害をもつ集団とその家族、ボランティアを対象とし、個人同士が語り合い、影響を与えあい、集まることそのものがリハビリになるという極めて重要な取り組みが「失語症リハビリ教室」である。当市では市内8か所の保健センターにおいて、失語症者、家族、失語症について学びうまく関わりたいと考えている市民ボランティア、保健師、言語聴覚士で教室を開催している。フリートークとことばの切り口のゲームで十分なコミュニケーションを図れるように構成している。会の前半はこの1ヶ月の間にどこに外出したのか、という話題を地図や持ち帰ったパンフレットで共有する。市内の話題のラーメン屋で外食したことや病後初めて参加した同窓会の話、音楽会でバッタリ参加者同士が出会ったことなど同じエリアに住む者同士ならではの会話が飛び交っている。盛り上がりには、話を繰り返す、地図を使って位置の確認をしながら進める、今何が話題になっているのかをキーワード化して黒板に示すなどの失語症の特徴に配慮した方法が欠かせず、その支援をボランティアも率先して行っている(図3)

表1:身体機能とSF-36との関係 表2:身体活動SEとSF-36との関係

失語症者の閉じこもりを予防するためには、失語症を理解し適切な対応をしてくれる者が地域に多数いることが重要である。教室を通じ、ボランティアが有機的に失語症者に関わり、地域で多数育つためには「マニュアル」・「研修」・「実際に失語症者と接する体験」・「実践の場」が必要であることが分かった。こうした活動が、失語症者が社会参加できる環境づくりの一助になり得る。
また、日常生活の基盤であるコミュニケーションにおいて言語症障害が長期にわたって継続する失語症者の家族は負担感を感じており、家族も失語症リハビリ教室に参加し、本人の変化を実感したり、家族自身も交流を通じて悩みを言えたりすることで本人の症状が分かりやすくなるといった効果もある。他の参加者やボランティアも含んだ教室全体で交流を通じて家族と失語症者がうまく関わることができるようにすることが家族支援につながると考える。
在宅療養の領域では、障害の機能回復・維持の要素に加え、「自分にあった方法で主体的に生活している」というヘルスプロモーションの視点で、失語症者、家族、市民ボランティアが互恵的につながった広い視野のリハビリの展開が期待されている。

●引用文献
(1) Bronwyn Davidson. Social participation for older people with aphasia:The inpact of communication disability on friendships. Topics in stroke rehabilitation2008;15:325-340
(2) Stefan T Engelter. Epidemiology of aphasia attributable to first ischemic stroke incidence,severity,fluency,etiology,andthromolysis.Stroke2006;37:1379-1384
(3) 朝倉哲彦.失語症全国実態調査報告.失語症研究2002;22:67-82
(4) 種村 純.高次脳機能障害全国実態調査報告.高次脳機能研究2006;26:89-98
(5) 厚生労働統計患者調査の概況2008
(6) 深浦順一.言語聴覚療法提供の課題.地域リハビリテーション2010;5:834-837
(7) 一般社団法人日本言語聴覚士協会ホームページ;2012/10/1 アクセス