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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.4 A3 (Oct. 19,2012)

人工膝関節全置換術後患者の身体機能と身体活動セルフ・エフィカシーの変化は健康関連QOLの回復過程に影響するのか?

著者:飛永 敬志 氏(写真)1)2),岡 浩一朗 氏3),橋本 久美子 氏1),宮崎 千枝子 氏1),谷澤 真 氏1),安村 建介 氏4),菅野 吉一 氏1),大関 覚 氏1)4)
1)獨協医科大学越谷病院 リハビリテーション部
2)早稲田大学総合研究機構エルダリー・ヘルス研究所
3)早稲田大学 スポーツ科学学術院
4)獨協医科大学越谷病院 整形外科
key words:人工膝関節全置換術,健康関連QOL,セルフ・エフィカシー

健康関連QOL(Health Related Quality of Life:HRQOL)を向上させる因子の一つとして,身体活動セルフ・エフィカシー(Self-Efficacy:SE)が注目されている。SEとはBanduraによると「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」と定義されている。特に運動や身体活動に関するSEは,身体活動や行動変容や運動の継続,更にはHRQOLに関係するとされている。しかしながら人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty: TKA)患者に対して,身体活動SEがHRQOLに及ぼす影響について明らかにされていない。本研究の目的はTKA後のHRQOL向上における身体機能および身体活動SEとHRQOLの関連性について検討した。

【方法】
対象は2010年10月から2012年5月までに当院でTKAを施行した変形性膝関節症患者52例60膝とした。手術時年齢は73.3±7.6歳,BMI26.4±3.6 kg/m2,術後在院日数25.4±5.6日であった。術後リハは当院プロトコールに準じて術後翌日から関節可動域運動,筋力増強運動,全荷重許可のもと歩行練習を実施し,退院後は術後3ヶ月間,週1から2回の頻度で外来リハを実施した。
身体機能評価はTimed Up and Go test(TUG),開眼片脚起立時間(One Leg Standing:OLS),膝伸展筋力を測定した。身体活動SEは虚弱高齢者の身体活動SE尺度(歩行,階段,重量物)を用いた。
HRQOLの評価指標はSF-36 version 2スタンダード版を用いた。SF-36の下位8尺度である身体機能 (Physical Functioning: PF),日常役割機能-身体 (Role Physical: RP),体の痛み (Bodily Pain: BP),全体的健康感 (General Health Perceptions: GH),活力 (Vitality: VT),社会生活機能 (Social Functioning: SF),日常役割機能-精神 (Role Emotional: RE),心の健康 (Mental Health: MH) と3つのサマリースコアである身体的サマリースコア(Physical component summary: PCS),精神的サマリースコア(Mental component summary: MCS),役割/社会的サマリースコア(Role/Social component summary: RCS)を測定した。
各測定値は術前と術後3ヶ月(外来通院時)の変化量を算出して関連性を分析した。

身体機能のうち,TUGはSF-36のRP,BP,VT,RE,MH,RCSと,膝伸展筋力の変化量はSF-36のPF,RE,PCSと有意な相関を示した(表1)。身体活動SEはSF-36のPF,RP,GH,REおよびPCS,RCSと有意な相関がみられた(表2)。身体活動SEの下位尺度のうち,歩行SEはSF-36のSF,MCSを除く全尺度と有意な相関を認めた(表2)。階段SEはPFと、重量物SEはPF,RP,GH,RE,MH,RCSと有意な相関を示した(表2)

表1:身体機能とSF-36との関係 表2:身体活動SEとSF-36との関係

我々はTKA患者のHRQOLは術後3ヶ月で向上することを報告してきたが,HRQOL向上に影響する因子に関しては明確にされていない。
本研究結果からTKA患者のHRQOLの向上には身体機能だけでなく,身体活動SEの向上も関連していた。身体機能では膝伸展筋力を向上させ,歩行および動的バランス能力を獲得することが重要である。身体活動SEでは特に歩行に関する自己効力感を高めることが,HRQOL向上につながるものと考える。TKA患者のHRQOLを向上させるためには,手術による疼痛除去,リハによる身体機能の改善に加え,身体活動SEを高める方策を積極的にリハに取り入れていく必要がある(図1)。具体的にはスモールステップによる目標設定やセルフモニタリングなどの行動科学的介入,さらにはセラピスト自身のSEを高めることも患者のSEを向上させるには必要になるであろう。

図1:TKA患者のHRQOL向上のためには?

●引用文献
1)Bandura A: Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Physical Rev, 1977,84:191-215.
2)福原俊一, 鈴鴨よしみ:SF-36v2日本語版マニュアル (第3版). NPO健康医療評価研究機構, 京都, 2011, pp5-96.
3)飛永敬志, 岡浩一朗, 他:人工膝関節全置換術による身体機能および健康関連QOLの回復過程.理学療法科学. 2011; 26: 291-296.