高齢者の転倒リスクを予測する評価法としての5m backward walking test
2)広島大学大学院保健学研究科
高齢者は後方への転倒が増加し、脊椎圧迫骨折や大腿骨頚部骨折などのリスクが高いことが明らかにされている。そのため、10mFWT(forward walking test)や5mFWTなどの前方への移動能力の評価のみではなく、後方への移動能力を評価することは重要であると考える。高齢者の転倒リスクを予測する方法として筆者らは、5mBWT(backward walking test)の有用性を検討してきた。5mBWTとは5mの直線コースを最大努力で後方に歩行し、高齢者の運動能力評価を目的とした評価方法である(図1)。筆者らの先行研究で、対象を転倒群と非転倒群の2群に分けて比較した結果、転倒群では5mBWTの歩行時間が有意に延長することが示された。さらに、5mBWTの歩行時間が転倒リスク要因として抽出されたことから、5mBWTが転倒リスクのある高齢者の鑑別に有用であることが示唆された。
本研究では、高齢者を対象に転倒を予測するための検査として5mBWTの歩行時間の境界値を明らかにすることを目的とした。
対象は、当院の外来リハビリテーションを利用している65歳以上の高齢者153名(男性60名、女性93名)とし、過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群と非転倒群の2群に分けた。転倒群は71名(男性30名、女性41名、平均年齢80.4±6.3歳)、非転倒群は82名(男性30名、女性52名、平均年齢77.8±5.8歳)であった。5mBWTのコース設定は助走路を設けず、5mの歩行路の前方に三角コーンを設置し、コーンを見ながら歩行することで歩行時に大幅にコースから外れることを防ぐよう工夫した(図2)。また、検査中の転倒を防ぐため、検査者は常に対象の横に付き添って歩くこととした。測定は5mBWTおよび10mFWTを3回ずつ実施し、それぞれ最速値およびその際の歩数を採用した。
5mBWTの歩行時間は転倒群では12.5±3.7秒、非転倒群では5.5±1.4秒、歩数は転倒群で23.0±7.6歩、非転倒群で13.3±3.1歩だった。同様に10mFWTの歩行時間はそれぞれ10.4±3.2秒、7.2±2.0秒、歩数は20.7±4.2歩、16.9±4.5歩だった。転倒群では5mBWTおよび10mFWTの歩行時間の延長、歩数の増加がみられた。統計学的分析より5mBWTの境界値、感度、特異度はそれぞれ6.5秒、96.6%、70.2%、10mFWTの境界値、感度、特異度はそれぞれ7.8秒、86.5%、70.8%だった(表1,表2)。
表1:5m BWTおよび10m FWTの歩行時間、歩数
転倒群(n=71) | 非転倒群(n=82) | 転倒群/非転倒群 | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
5mBWT | 時間(秒) | 12.5 ± 3.7 | 5.5 ± 1.4 | 2.3 | p<0.01 |
歩数(歩) | 23.0 ± 7.6 | 13.3 ± 3.1 | 1.7 | p<0.01 | |
10mFWT | 時間(秒) | 10.4 ± 3.2 | 7.2± 2.0 | 1.4 | p<0.01 |
歩数(歩) | 20.7 ± 4.2 | 16.9 ± 4.5 | 1.2 | p<0.01 |
表2:5m BWTおよび10m FWTの感度、特異度、カットオフ値
感度 | 特異度 | カットオフ値 | |
---|---|---|---|
5mBWT | 96.6% | 70.2% | 6.5秒 |
10mFWT | 86.5% | 70.8% | 7.8秒 |
本研究では、5mBWT、10mFWTの歩行時間および歩数を測定した。結果、5mBWT、10mFWTの歩行時間および歩数に2群で有意な差がみられた。筆者らは転倒経験者の後方歩行は歩行時間の延長、歩数の増加、歩幅の減少を認めると報告しており、先行研究と同様に特に転倒経験者の場合は後方への移動能力が低下することが示唆された。
また5mBWTの歩行時間が最も優れた転倒リスクを予測するテストであり、今回の対象では転倒を予測する境界値は6.5秒であることが示された。さらに5mBWTの歩行時間のみが転倒リスク要因として抽出された。戸村らは10mBWTの高齢者の転倒を予測する境界値は13.6秒であると報告しており、今回の結果からみて約2倍の歩行時間になっていることから、妥当な値であったと考える。これらのことから、5mBWTは10mBWTと同様に高齢者の転倒リスクを予測することが可能であり、臨床で用いる際には、歩行距離が短くより安全に行うことができると考える。
今回の研究より5mBWTが転倒要因として抽出され、80歳近くの高齢者の転倒リスクを予測する境界値が6.5秒であることが示されたことから、臨床場面で転倒リスクを予測する評価法として5mBWTは有用なテストのひとつにできると考える。