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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.3 A3 (Sep. 07,2012)

膝関節軟骨修復術式によってスポーツ復帰状況は異なるか?

-術後2年での短期成績-

著者:平田 和彦 氏(RPT)(写真)1),伊藤 義広 氏(RPT,M.S.)1),安達 伸生 氏(MD, Ph.D.)2),木村 浩彰 氏(MD, Ph.D.)3),越智 光夫 氏(MD, Ph.D.)2)
1)広島大学病院診療支援部 リハビリテーション部門
2)広島大学大学院 整形外科
3)広島大学病院 リハビリテーション科
key words:軟骨損傷,軟骨修復術,スポーツ復帰

【目的】
膝関節軟骨損傷は,しばしばスポーツによって発生し,膝関節の疼痛や機能障害を引き起こす.関節軟骨は自己修復能力が低く,関節軟骨損傷は保存的治療のみでは修復困難であり,徐々に増悪し,変形性膝関節症に移行する.そのため近年,軟骨損傷に対し,外科的治療法が選択されている.軟骨損傷に対する外科的治療として,マイクロフラクチャー(MF)や骨軟骨柱移植(OAT),自家培養軟骨移植(ACI)などが選択され,術後の膝関節機能について多くの報告がある(図1).しかし,患者にとって最も重要と思われる術後のスポーツ復帰状況に焦点を当てた報告は少ない.今回,当院で軟骨修復術を受けた患者のスポーツ復帰状況を調査したので報告する.

図1:軟骨修復術の特徴

【方法】
2004年8月から2008年9月までに膝関節軟骨損傷と診断され,当院で外科的手術をうけた患者を対象とした.術前・術後2年でフォロー可能であった33患者のデータを収集した.患者の内訳はMF11名(男性9名,女性2名,平均年齢31.4±16.9歳),OAT9名(男性7名,女性2名,平均年齢33±18.1歳),ACI13名(男性8名,女性5名,平均年齢30.0±9.6歳)だった.
活動レベルの評価は,Tegner activity scoreを使用し,受傷前と術前,術後2年で評価した.また,術式毎のスポーツ復帰率とスポーツ復帰までの期間を評価した.

図2:Tegner activity scoreの推移

【結果】
Tegner activity scoreは,MF(受傷前7.7±2.5点,術前3.9±4.7点,術後2年8.0±1.8点),OAT(受傷前6.4±2.4点,術前1.1±2.4点,術後2年5.7±2.4点), ACI(受傷前7.3点±1.5点,術前1.3±2.5点,術後2年5.9±2.0点)だった(図2)
すべての術式で受傷前と術前,術前と術後2年の間に有意な差を認めた.ACIのみ受傷前と術後2年の間に有意な差を認めた.スポーツ復帰率は,MF81.8%,OAT77.8%,ACI61.5%だった.スポーツ復帰までの期間は,MF6.9±3.4ヶ月,OAT12.9±8.1ヶ月,ACI18.9±7.4ヶ月であった(図3)

図3:スポーツ復帰までの期間とスポーツ復帰率

【考察】
今回の結果では,MFは術後2年時の活動レベルが他の術式と比較して高く,復帰までの時間も短く、スポーツ復帰率も良好であった.よって早期スポーツ復帰を目標とするアスリートにとってMFは有利であると考えられる.しかし,Gobbiら1)は,MF後2年以降でスポーツ活動性の低下が生じてくると報告しており,長期的なスポーツ継続には不利である可能性がある.一方ACIは,術後2年経過してもスポーツ活動レベルは,術前レベルまで回復しておらず,スポーツ復帰までの期間も長く,スポーツ復帰率も低かった.ACIはOATやMFよりも手術侵襲が大きく,修復軟骨の成熟に長期間を要すため,スポーツ復帰に時間がかかる。Mithoferら2)は,ACIは修復軟骨の成熟に長期間を要すが、他の手術手技よりも長期的な耐久性に優れていると報告しており,ACIは長期的なスポーツ継続を希望する患者にとって有利である可能性がある.

【研究の意義と今後の課題】
本研究結果により軟骨損傷治療を選択する上での1つの指標を示した.今後,軟骨修復術を選択する際に,スポーツ復帰時期やスポーツレベル,長期的な予後を考慮し,患者の希望と照らし合わせて行われるべきと考える.今後の課題として、手術手技ごとに比較する際に軟骨損傷のサイズや年齢,スポーツ活動レベルなどによって手術手技が選択されているというバイアスを考慮する必要がある.また、より長期的なスポーツ活動状況も調査し,適応を考慮していく必要があると考える.

●文献
1) Gobbi A, et al.: Treatment of full thickness chondral lesions of the knee with microfracture in a group of athletes. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 13(3): 213-21, 2005
2) Mithoefer K, et al.: Return to sports participation after articular cartilage repair in the knee: scientific evidence. Am J Sports Med 37 Suppl 1:167S-76S, 2009