ページの上へ戻る

トップ > ジャーナルハイライト > 小児呼吸器疾患に対する呼吸理学療法の効果検証
ジャーナルハイライト
PT
Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.3 A1 (Sep. 07,2012)

小児呼吸器疾患に対する呼吸理学療法の効果検証

著者:古田 哲朗 氏1)
1)千葉県勤労者医療協会 船橋二和病院 リハビリテーション科
key words:呼吸理学療法,効果,小児

【はじめに】
呼吸理学療法(以下RPT)の効果に関しての研究はそれほど多くなく、エビデンスもほとんどだされていない。しかし、臨床の場面ではRPTを実施する場面は非常に多く、その介入方法は理学療法士(以下PT)に委ねられている。特に小児呼吸器疾患に対しては、学校教育場面で取り上げられることや、研修・勉強会も少ない。経験として感じることは、RPTは万能なものではなく、効果を感じる場面がある一方で、むしろ必要がないと感じる場面もある。医師からの処方がでて、やみくもに介入するのではなく、何を目的にRPTを実施するのかを評価、判断し、より効果的に介入していきたいと考え、RPTの効果について検証した。  
今回は、当院小児科に呼吸器疾患で入院する児の傾向と特徴をまとめるとともに(図1、2)、RPTの効果が、疾患や年齢などと関連性があるのかを後方視的に検証した。

図1:呼吸器疾患の割合と平均年齢,図2:平均在院日数比較

【方法】
対象は2008年~2010年の3年間に呼吸器疾患で小児科に入院し、その間RPTが実施された225名(平均年齢2.89才)。方法は、RPTの効果が、「疾患」、「性別」、「年齢」、「PTのRPT経験数(3年間に小児呼吸理学療法を担当した数)」と関係性があるかを、カイ二乗検定を用いて検証した。
RPTの効果判定には、まず、カルテ記載から介入した日ごとの効果を「効果あり・変化なし・悪化」の3つにふりわけた。効果についてはSpO2の変化、脈拍、呼吸数の10%以上の変化、喀痰の有無、以上4つのいずれかの変化から判断した。ついで、介入期間全体を通して「効果あり・変化なし・悪化」の割合が最も多いものをその症例の最終的な効果判定(効果あり、変化なし、悪化、の3分類)とした(図3、4)

図3:効果判定の方法,図4:効果判定の例

【結果】
効果に有意に差が認められたものは、「年齢」と「担当のPTのRPT経験数」であった。
年齢では乳児(1才未満)、幼児(1~5才)、学童児(6~12才)に分類したときに、学童児では「効果あり」が67.6%と高いのに対し、乳児では「効果あり」が38.9%と明らかに低かった(p<0.05)(図5)
また、PTのRPT経験数との関係では、経験数を20件未満群、20件~75件群、75件以上群、の3群に分類したとき、75件以上群では「効果あり」が59.2%と高いのに対し、20件未満群では「効果あり」が33.3%と低い結果となった(p<0.03)(図6)
疾患や性別での優位な差はみられなかった。

図5:年齢層別RPT効果,図6:RPT経験数別のRPT効果

【考察】
RPTの効果については、対象年齢が高いほど効果があること、PTのRPT経験数が多いほど効果があることが示唆された。
年齢については、学童児ではRPTに対する拒否も少なく、声かけで咳が出せたり、腹式呼吸や深呼吸などが誘導しやすい、自主リハが指導しやすいのに対し、乳児では泣いたり、呼吸が速かったり、嫌がったりなど、徒手的介入が困難なことが多いことや、気道が狭くなりやすかったり、咳が十分に出せないことなどで、年齢による効果の差が出たと考える。
また、PTのRPT経験数については、経験の多いPT群は、RPTの外部勉強会に参加したり、成人のRPT経験も多いことがわかった。これは、個人の力量によっても効果に差がでるものということが示唆され、RPTを効果的に実施するためにも、知識、技術の研鑽とともに、RPT経験値も重要であることが考えられた。
今回は後ろ向き研究なため、対象項目が少なく、データも不十分な面があった。効果判定についても、より効果が反映される方法の検討が必要である。今後も、どのような症例に効果があり、どのような症例には効果が少ないかを検証していくことが重要だと考える。無気肺の有無や、CRP、加湿、入院からのRPT開始までの日数との関係、また、RPTの手技ごとの効果など、より細かい項目との関連性を、前向き研究として検証していきたいと考える。