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ジャーナルハイライト
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Article
PT-OT-ST Channel Online Journal Vol.1 No.2 A7 (Aug. 24,2012)

周術期消化器がん患者の運動機能変化は自宅復帰後のQOLに影響するのか?

著者:原 毅 氏(写真)1)3),久保 晃 氏2)
1)国際医療福祉大学三田病院 リハビリテーション室
2)国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
3)国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科
key words:消化器がん患者,運動機能,QOL

近年がん生存率は,診断や治療技術の進歩などがん医療の発展により,世界的に増加傾向にある1)。我が国においてもがん生存者は,1999年末で298万人であったが2015年に533万人へ達すると予測されている2)。この変化に伴い,2006年にがん対策基本法が成立し,基本的施策として「がん患者の療養生活の質の維持向上」があげている。また,2010年度診療報酬改定では,がん患者リハビリテーション(以下リハ)料が新設され,リハ分野を含めた新しいがん医療が求められ始めている。

がん患者の増加に伴い,がん患者の運動機能に対するリハが着目され始めている。がん患者に対してリハを実施した介入研究は,主に国外より報告されている3-8)。介入後には,がん患者の運動耐容能や筋力などの運動機能が有意に向上し,同時に精神機能,疲労感,生活の質(Quality of Life; 以下QOL)に有意な改善が認められ,職業復帰も促進するなどリハの介入効果が証明されている。

しかし一方,本邦のリハ分野では,がん患者を対象としたリハ関連の報告が少なく,本邦におけるがんリハ発展のためにも早急に検討していくべき課題と考える。本稿では,がん全罹患部位の約45%を占めている9)消化器がんに対して開腹手術を施行された症例を対象に手術前後で運動機能を測定し,算出した変化率と自宅復帰後に評価したQOLの関係性について検討した。

1.対象
対象は,手術前に運動機能障害および認知機能障害が認められず,開腹手術を施行後に経過が良好であった周術期消化器がん患者17名とした。

表1:対象者の基本的属性

年齢、手術時間、出血量、在院日数、運動機能評価日、評価日はmean±SDで表記

2.運動機能評価
対象者の運動機能指標には,6分間歩行距離(6-Minute Walk Distance; 以下6MWD)を使用した。6MWDは,手術日から1~2日前(以下手術前)と手術日から10日前後(以下手術後)の2つの時期に評価した。6MWDは,測定前にアメリカ胸部医学会のガイドライン10)に基づき説明し実施した。本研究における6MWDの禁忌事項として,耐えられない手術創部の疼痛や呼吸困難,胸痛,大量の発汗,顔面蒼白,チアノーゼが出現した場合を中止基準とした。6MWDの測定動作は,対象者が院内の勾配の無い平坦な50mの直線コースを6分間で可能な限り往復することを1回実施することとした。測定値は,「手術後測定値/手術前測定値×100%」の式に挿入し,変化率(以下%6MWD)を算出した。

3.QOL評価
対象者のQOLの指標には,健康関連QOLの包括的尺度とされているShort-Form 36-Item Health Survey version 2 (以下SF-36)11,12)のアキュート版を使用した。SF-36は,退院後2週間前後の時期に自己記入式の質問用紙を対象者に記入してもらい,認定NPO法人健康評価研究機構 iHope Internationalが推奨しているSF-36v2TM日本語版スコアリングプログラムを使用して得点化(0~100)した。本研究では,SF-36を構成している8つの健康概念である身体機能(Physical functioning; 以下PF),身体的日常役割機能(Role physical; 以下RP),体の痛み(Bodily pain; 以下BP),全体的健康感(General health perceptions; 以下GH),活力(Vitality; 以下VT),社会生活機能(Social functioning; 以下SF),精神的日常役割機能(Role emotional; 以下RE),心の健康(Mental health; 以下MH)について各々の下位尺度得点を測定値として使用した。

図1:6MWDとQOLの関係 *p<0.005(Spearman)

検討の結果より,周術期消化器がん患者の%6MWDは,自宅復帰後のSF-36下位尺度得点と有意な正の相関関係が認められた。このことから在院日数の短い周術期において消化器がん患者の運動機能を維持向上させることは,自宅復帰後のQOLに好影響がある可能性が示唆された。したがって,運動機能障害が認められない消化器がん患者においても手術前より運動機能を評価する必要があり,手術後には運動機能に対する積極的なアプローチが重要と考えられる。今後は,対象者数の増加や他の交絡因子の影響など,より一層検討していく必要があると考える。

●引用文献
1)de Boer AGEM, et al.: Cancer survivors and unemployment-a meta-analysis and meta-regression. JAMA. 2009; 301: 753-762.
2)辻哲也: 現状と今後の動向. 総合リハ. 2008; 36: 427-434.
3)Courneya KS, et al.: Effects of aerobic and resistance exercise in breast cancer patients receiving adjuvant chemotherapy: a multicenter randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2007; 25: 4396 – 4404.
4)McNeely ML, et al.: Effects of exercise on breast cancer patients and survivors: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2006; 175: 34-41.
5)Mutrie N, et al.: Benefits of supervised group exercise programme for women being treated for early stage breast cancer: pragmatic randomised controlled trial. BMJ. 2007; 334: 517.
6)Rogers LQ, et al.: A randomized trial to increase physical activity in breast cancer survivors. Medical Science Sports Exercises. 2009; 41: 935-946.
7)Segal RJ, et al.: Randomized controlled trial of resistance or aerobic exercise in men receiving radiation therapy for prostate cancer. J Clin Oncol. 2009; 27: 344-351.
8)Thorsen L, et al.: A systematic review of physical activity in prostate cancer survivors: outcomes, prevalence, and determinants. Support Care Cancer. 2008; 16: 987-997.
9)Matsuda T, et al.: The Japan Cancer Surveillance Research Group. Cancer Incidence and Incidence Rates in Japan in 2005: Based on Data from 12 Population-based Cancer Registries in the Monitoring of Cancer Incidence in Japan (MCIJ) Project. Japanese Journal of Clinical Oncology. 2011; 41: 139-147.
10)ATS Committee on Proficiency Standard for Clinical Pulmonary Function Laboratories: ATS Statement guideline for six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002; 166: 111-117.
11)Fukuhara S, et al.: Translation, adaptation, and validation of the SF-36 Health Survey for use in Japan. J Clin Epidemiol. 1998; 51: 1037-1044.
12)Fukuhara S, et al.: Psychometric and clinical tests of validity of the Japanese SF-36 Health Survey. J Clin Epidemiol. 1998; 51: 1045-1053.